海のアクティビティ

憧れの魚ジンベイザメとの遭遇

  • twitter
  • facebook
  • line
  • はてなブックマーク

ジンベイザメは世界中の温かい海に生息して外洋を回遊しています。

世界最大の魚で全長20mにもなりますが、プランクトンを主な食べ物とするおとなしいサメです。

ジンベイザメ1

名前の由来は体の模様が着物の甚平(じんべえ)に似ていることから名づけられたとされる。インドネシアで撮影:横田有香子

「ダイバーの憧れ 世界最大の魚」ジンベイザメ

私がダイビングを始めた1990年頃は「ダイバーの憧れの魚」として挙げられていました。「ジンベイザメに逢えたらダイビングを辞めても良い」という人もいたくらいで、ダイビングで出会うのは夢のような魚でした。

当時、ジンベイザメの写真を持っている日本人のカメラマンは3人しかいなかった。
というのを記憶しています。

そのうちの一人は著名な写真家の中村征夫さんでした。
中村さんがハワイでダイビングしたときの話です。

ボートから海に入って振り返ると巨大なサメがいて、それを見て一瞬失神してしまったそうです。しかし、無意識のうちに手にしていたカメラで数枚の写真を撮影した。
という有名なエピソードをご存知なダイバーの方もいるかもしれません。

当時、19歳でダイビングを始めたばかりの私は、中村さんの写真集でこのときのエピソードと美しいジンベイザメの写真を見ながら「いつか逢えたらいいな・・・」と毎日のように眺めていたのを覚えています。

そんな「憧れのさかな」だったジンベイザメですが、その数年後に、ほぼ確実に見られる場所が発見されました。西オーストラリアのニンガルリーフという広大なサンゴ礁で、サンゴの産卵の時期に、海面に浮かぶサンゴの卵を食ベに集まるジンベイザメが発見されたのです。

そのジンベイザメをセスナで上空から発見して、ダイバーが乗船したボートに連絡してジンベイザメとスノーケリングで泳ぐツアーが開催されるようになりました。

日本でもダイビング雑誌で紹介されるようになり、旅行社のツアーも行われるようになりましたが、セスナを使うことで、とても高額で簡単に参加できるようなものではありませんでしたが。

最近では、モルディブやタイなどでも高確率で見られるダイビングスポットが見つかり多くのダイバーがジンベイザメ目当てに訪れています。

そして、行けば確実に見られる場所も見つかっています。

インドネシアのチャンドワラシでは、漁師の採る小魚を目当てに集まるジンベイザメを見られます。

ジンベイザメ2

インドネシアのチャンドワラシでジンベイザメと泳ぐダイバー。撮影:横田有香子

フィリピンのモルアボルでは、プランクトンを撒くことで餌付けして、そこに行けば常に何匹かのジンベイザメを見ることができてしまうのです。

水族館でも飼育されていて、日本では沖縄の美ら海水族館や大阪の海遊館で見ることができますし、沖縄では生簀に飼われているジンベイザメとシュノーケルや体験ダイビングすることもできてしまいます。

ということで、「憧れの魚」から「会いに行ける魚」となったジンベイザメですが、日本で野生のジンベイザメを確実に見ることができる場所はありません。(見つかっていません)

小笠原では、ドルフィンスイムやホエールウォッチング船から水面付近を泳いでいるのを見つけたり、ダイビングで偶然に遭遇するなど、目撃されるのは年に数回の私たちダイビングガイドにとって「憧れのさかな」です。

そんなジンベイザメに幸運なことに8月1日に出会うことができました。

この日、私はダイビングガイドとして父島の東にある東島近くの「ドブイソ」というダイビングポイントに向かいました。

外洋に面したこのドブイソはマンタやサメ、大型のイソマグロなどの回遊魚が見られる父島随一の大物ポイントです。

朝一のドブイソはまだ他のボートもなく、一番乗り!
期待も高まります!

ジンベイザメ3

潮流が速く大物釣りのポイントとしても有名なドブイソ

過去に何度もジンベイザメの目撃例もあるポイントで、潜る前のブリーフィング(説明)ではいつも「ジンベイザメもでたことのある場所です!」と説明したりするのですが、私自身は一度も出会ったことはありません(笑)

このときは、ゲストのリクエストでちょっと深場に生息する小笠原固有種の魚、ミズタマヤッコを見に行くことを目的にしていたのですが、ブリーフィングではいつもどおり「ジンベイザメなんかも出たことあるポイントですよ~でも僕は見たことないですけどね~」などと冗談交じりに言ってました。

この日は、無風でベタ凪、潮止まりで流れもゆるいベストコンディションでした。

ドブ磯は水面に顔を出す岩礁が、ほぼ垂直のまま水底70mくらいまでつづく、ドロップオフと呼ばれるダイナミックな景観です。

エントリーすると透明度は30m以上。

ボニンブルーと称される濃紺の海に吸い込まれるように潜っていきました。

ジンベイザメ4

小笠原固有種のミズタマヤッコ。左上にいる尾びれが水玉模様の魚がオスで、右下にいいるのがメス

お目当てのミズタマヤッコを見つけて写真を撮った後、徐々に水深を上げながら泳いでいたときのことでした。

水面にきらめく太陽に巨大なシルエットが見えたのです。

大きな四角い頭に、手のように突き出た胸ビレに、一瞬で、憧れのさかな!ジンベイザメとわかりました。

ジンベイザメ5

最初に見えたこのシルエット。きらめく太陽光が美しかった

ゲストに知らせるためにベルを思いっきり鳴らしながら、大興奮でジンベイザメに向かって泳ぎました。

ジンベイザメは水深15mほどのところを、ゆっくりと泳いでいたので、追いついて並走することができました。

ジンベイザメ6

優雅に泳ぐジンベイザメ。濃い青灰色の体は傷もなく美しい個体だった。撮影:横田有香子

上の写真はゲストの横田さんが撮影したもので、映っているダイバーは私なのですが、大きさを比較すると(広角レンズなので、少し誇張はされていますが)8mから10mくらいの大きさだと思います。

私が吐き出している泡の量の多さが、興奮具合を表していて、少し恥ずかしいのですが(笑)外洋で暮らすジンベイザメは、おそらくダイバーを見たことがないのでしょう。

横を泳ぐダイバーに興味を持ったのか、向きを変えると、大きな体に似合わない小さな目でダイバーを見るような様子も見られました。

名前の由来ともなっているジンベイ模様がとても美しく神秘的でした。

尾びれの上下にクロコバンをつけていたのもキュートでした。

ジンベイザメ7

横を泳ぐダイバーに興味を持ったのか顔を向けるジンベイザメ

と今、私は書いていますが、実際その時は感動と興奮、緊張でカメラを握る手は震えていました。心のなかで何度も「落ち着け!」とつぶやきながらカメラのシャッターを切ったのを覚えています。

ジンベイザメはそのままゆっくりと青い海へと姿を消しました。

カメラのデータを見ると、5分間も一緒に泳ぐことができました。

今思い出すと、長いようで短かった夢のような一時でした。

ジンベイザメ8

尾びれに付くクロコバンもジンベイザメに合わせたかのような大きいサイズだった

この日はおがさわら丸の父島出港日。
午後3時に出港するおがさわら丸に間に合うように、ダイビングは午前中の半日のツアーが催行されています。

この出港日は、潜らずにゆっくりとお土産を買ったり島内観光をする方も多いのですが、なぜかこの半日のツアーは、ダイビング中にイルカやマンタがでたりとか「何か」が起こることがあり「出港日マジック」と呼ばれています。

今回のジンベイザメはまさに「出港日マジック」だったといえるでしょう。

父島でダイビングガイドを初めて23年、若いガイドさんが次々とジンベイザメを見る中で「僕の順番はいつくるのかな?もう一生合えないかな~」などと思っていたのですが、ジンベイザメの横を泳ぎながら「今までダイビングガイドを続けることができて良かったな~」」と、本当に幸せを噛み締めた時間でした。

そして、このときは、ゆっくりと写真撮影を目的とするフォトガイドだったので、普段のガイドでは持たないカメラを持っていたのも幸運でした。

今では「会いにいける魚」になったジンベイザメですが、こんな風に「憧れの魚」としての遭遇も夢があってよいのではないでしょうか?

みなさんも、潜り続けていればどこかの海で「憧れの魚」に出会えるかもしれません!

憧れの魚ジンベイザメとの遭遇動画はこちら

南俊夫

写真家・ガイド

南 俊夫

22歳の時に初めて小笠原を訪れる。大学卒業後、設計会社に勤めるが27歳で父島に移住。以来、20年のダイビングガイドをしながら小笠原の自然を撮影し続ける。2011年からはアホウドリの保全活動にも従事しする。
作品は国内外の広告、出版物で使われ、2015年にはアメリカのネイチャーズベストマガジンの表紙を飾った。
著書
「イルカ海に暮らす哺乳類」あかね書房 
「僕はアホウドリの親になる」偕成社
受賞歴
2000年
ナショナルジオグラフィックフォトコンテスト入賞
2008年
米、ネイチャーズベストマガジンフォトコンテストOcean部門入賞
2011年
米、ネイチャーズベストマガジン・Ocean Vewsフォトコンテスト2nd Place
2015年
米、ネイチャーズベストマガジン・Ocean Vewsフォトコンテスト11nd Place

写真展
2012年6月
「コニカミノルタ環境企画展OGASAWARA未来へつなぐ自然展」 新宿コニカミノルタギャラリー
2013年11月
「海のシェルパ展 AQUANOTE」四人展 新宿ヨドバシカメラギャラリーINSTANCE
2015年10月
「小笠原の今を知る 南俊夫写真展」葛西臨海水族園
2018年10月「アホウドリ復活への挑戦 ~小笠原で行われたこと」品川キヤノンギャラリー
作品は下記ウェブサイトで見ることができる。

http://toshiominami.com/