小笠原の魅力をご紹介する新たな島民ライターをご紹介します。
石門。それは一番ディープな母島。
一歩足を踏み入れると巨大な樹木と霧の立ち込める、人の侵入を拒むような鬱蒼とした森…。「豊かな自然があふれる島・母島」ですが、その中でもとりわけ深い森があるのが「石門(せきもん)」という場所です。
「石門」は母島の歩道の中で唯一、東京都認定ガイドの同行がないと入れない場所です。

石門の入り口。ここから冒険がスタートする。
間違って入林することが無いよう、ガイドマップ等を見ても南崎や乳房山と違いルートが書かれておらず、まさに秘密のベールに包まれた場所なのです。
この場所を訪れるには往復約6~7時間と丸一日コースになりますので、石門に行くには必ず母島に2泊以上する必要があります。このハードルの高さもまた、石門をなかなか行けない場所にしています。

赤丸内が石門。半島の先が石門崎。
ははじま丸の到着する沖港から北へ車で約15分で石門の入り口に到着します。
石門地域は半島になっており、この一番先っちょが「石門崎」というのですが、ここを海から見るとまさに石の門になっており、これが石門の名前の由来です。

石門崎の石の門 東側の海からしか見られない。
ただ、この石の門は石門を歩いていても見えませんし、定期船「ははじま丸」の航路も島の反対側なので、なかなか見れる機会がありません。ここも秘密の場所ですね。
知れば知るほど・・石門はすごいぞ!!
この石門ですが、結局何がすごいか一言でいうと「原生に近い豊かな自然が残っている」ということです。
そのため、国立公園の特別保護地域、林野庁の森林生態系保護地域、東京都と小笠原村で定める自然環境保全推進地域に指定されるなど多角的に保全されています。
また、前述のとおり、ガイドなしでは入れませんし、自主ルールでガイド1人当たりの利用者は5名まで、利用期間は3月~9月までと限られています。

さらに石門の希少性を高めているのがその地質。
小笠原は父島も母島も火山でできた島なので大部分が火山岩でできています。
しかし石門は母島が形作られた約4400万年前より後の3850万年~3380万年以降にできた一番新しい地層です。
この地層は海底が隆起して陸地になった場所で、海中でできたサンゴ礁由来の石灰岩でできています。この石灰岩が雨水などによって長年浸食されてできたギザギザに尖った地形を「ラピエ」といいます。
同じように石灰岩の「ラピエ」がある場所が、父島のすぐそばにある南島です。小笠原有数の観光地なので行ったことがある人や、ネットや雑誌で目にしたことがある人も多いかと思います。
こちらは周りがすぐ海で標高も高くないため、大昔、海の底にあったというのはなんとなく想像がつきますが、石門は入り口から何時間も深い森の中を歩いて行った場所でこのラピエがいきなり現れるのでなんとも不思議な気分になります。

突如現れるラピエの壁。南島とはまた違った様相を呈す。
大昔、ここが海の中だったのかと思うと、壮大な地球の歴史を感じますが、壮大すぎてキャパオーバー気味です…。
石門でしかみられない生き物たち
さて、そんな他とは違う石門だからこそ、なんと世界中で石門にしかいない生き物もいます。
一つ目はその名もずばり「セキモンノキ」。なんとわかりやすい。
ただ、名前ほど目立つ木ではないので、ガイドさんに教えてもらわないと見逃してしまいます。3月~4月ごろ小さな丸い花をつけます。
セキモンノキ

セキモンノキ。よく見ると花をつけています。
石門の名前を冠する植物の2つ目は「セキモンウライソウ」。
「ウライ」は台湾北部の烏來(ウーライ)に由来しています。これは石灰岩地にだけ生えるちょっと変わった植物です。
セキモンウライソウ

セキモンウライソウ ラピエに生育します。足場要注意!!
ほかにも石門地域でしか見られない植物やカタツムリ、明治の入植期に伐採された巨大なオガサワラグワの切り株、湿性高木林の巨木たち、そして終点の雄大な景色など見所が盛りだくさんですが・・・
それは実際に行って見るお楽しみにとっておきましょうね!!
シーズン到来!石門ルートは3月から入山開始

”希少なアカガシラカラスバトという固有のハトの繁殖を妨げないように”という理由などから、石門は10月~2月まで入山禁止期間を設定しております。
いよいよ3月から入山可能です!(一部のルートは3月末まで利用禁止で、全ルート利用開始は4月からです。)
入山に伴い、石門で1番注意が必要なこと


ただ、入山に伴い、石門では1番注意が必要なことがあります。
それは、この石門は原生に近い豊かな自然を大切に残している場所ですので、登山ルートも”きれいに歩きやすく整備された歩道ではない”ということを理解しておいてください。
人一人がやっと通れるような幅の道で根っこを超えたり、ロープをつかんで上り下りしたり、倒れている木をくぐったり…と非常に歩きにくい、よく言えばアドベンチャー感あふれるルートです。普段から山登りなどをされている健脚向けのコースになります。
母島には、ほかにも南崎や乳房山など歩きやすくて見ごたえのあるコースもありますので、当日のコンディションとご自身の体力に合ったコースを選んでみましょう。
ガイドさんや母島観光協会などに相談するのもいいでしょう。
「近自然工法」で整備された歩道を歩いてみよう!

近自然工法での歩道整備の様子。筆者も頑張りましたよ~!
ちなみに、歩きにくいといっても全く整備されていないわけではありませんよ。
土が流れてしまったり、斜面や段差が急だったりと、危険な箇所は入山禁止期間中に多くの人たちの手によって「近自然工法」という方法で整備されています。
この工法は、現場にある材料で地形に合わせて自然になじむように施工する方法で、補修した後も目立ちません。さて、実際に歩いてみて何箇所気づくことができるでしょうか?石門トレッキングの楽しみがまたひとつ増えましたね。
見所が盛りだくさんな石門。いかがでしたか?
さて、今回は3月から利用可能になる石門の紹介でした。
石門を歩きたくなった方はまず、母島観光協会『ガイドと行く』石門コースをチェックしてみてくださいね。
入林前に母島観光協会で申し込むと300円で石門の入林記念証を発行してもらえます。

石門入林記念証。ガイドのサインが入ります。
石門から戻ってすぐに受け取ることも、郵送で自宅に送ってもらうこともできます。
頑張って歩いた思い出とともに旅の記念になりますね!
最初にも書きましたが、石門に行くには必ず母島に2泊以上する必要があります。
残りの時間も有効に使って母島をたっぷり満喫してみてくださいね!

ネイチャーガイド
irie isle (アイリーアイル) 宮川 五葉
福岡に生まれ、沖縄本島→石垣島→奥多摩と端っこを攻め続け、やっぱり南の島がいい!と母島に移り住み10年目、ここを終の棲家と定める。現在は東京都レンジャーとガイドの2足の草鞋を履いて活動中。仕事で山に行くので遊びは海派。植物は味で覚える派。飲み物はビール派。
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