小笠原村には、毎年さまざまな学校が教育旅行として訪れます。
本インタビューは、そうした学校の先生方にお話を伺い、小笠原という場所でどのような学びが生まれているのかを実践の視点から紹介しています。
かえつ有明高等学校では、修学旅行の行き先として小笠原村を選択し、生徒主体で教育旅行の企画・実施に取り組みました。
行き先の検討は、候補地を並べて比較するところからではなく「どのような体験をしたいのか」「クラスとして何を大切にしたいのか」を言葉にするところから始まったといいます。
24時間の船移動や医療体制、天候による運航状況など小笠原を選ぶ際には事前に把握しておくべき条件がありました。生徒たちはそれらを踏まえたうえで情報を集め、関係者とやり取りを重ねながら実施に向けた計画を具体化していきました。
実際に現地で印象に残ったのは、自然体験や学習プログラムだけではありません。
多くの生徒が口を揃えたのは「島の方々との距離の近さ」や「人との関わりの温度感」でした。そしてその経験は、帰校後の振り返りや進路選択にも静かに影響を与えています。
本インタビューでは、行き先決定までのプロセス、企画段階での葛藤、渡航までの向き合い方、そして現地で得た学びとその後の変化について引率を務めた先生と、実際に企画・参加した生徒たちの言葉を交えながら振り返ります。
インタビューを受けていただいたかえつ有明高等学校の皆さま 。
左から 虫明さん、梅本さん、坂本さん、松永さん、宍戸さん、先生
「どこに行くか」より前に、「どのような学びを得たいか」を整理した行き先
先生:私自身、小笠原へ行くのは今回の教育旅行が初めてでした。
学生全員:私たちも、これまでに小笠原へ行ったことがある人はいませんでした。
学生 坂本さん:教育旅行に参加したのは、生徒32人と引率の先生が2人です。
学生 宍戸さん:行き先の候補は、国内外を含めて全部で8か所ありました。
学生 虫明さん:行き先を先に決めるのではなく、クラス全体で「どのような体験をしたいか」を言葉にするところから話し合いが始まりました。
「デジタルデトックスをしたい」「普段はできない経験をしてみたい」「自然を全身で感じたい」といった視点が共有されていき、そうした価値観に照らしたとき小笠原が一番合っているのではないか、という認識がクラスの中で少しずつ広がっていったように思います。
多数決に頼りきらない行き先決定のプロセス
学生 梅本さん:行き先を考えるうえでは、まず費用面を意識していました。
国外だとどうしても負担が大きくなりますし、国内であっても安全性がきちんと確保できるかどうかは大切なポイントでした。
そのうえで、父島のハートロックのような自然に触れられる体験や、星がきれいに見える環境、島の公園に行ってみたいといった声も多く挙がっていました。
そうした希望を一つずつ出し合いながら、クラスとして何を大切にしたいかを整理していった感覚です。
学生 松永さん:費用や安全性に加えて、限られた条件の中で実行できるかどうかも大きなポイントだったと思います。
他の候補地だと巡る場所の選択肢が多い分、計画の難易度も上がる。その点、小笠原は行ける範囲がある程度限られているからこそ、プランを組み立てやすかったです。 外部の協力者を「チーム小笠原 ※」と呼んでいたのですが、学生主体で一緒に考えてくださったことも、大きな支えになりました。
※小笠原海運、小笠原村観光局、小笠原村および村内の観光協会、小笠原専門の旅行会社などが連携し、官民が一体となった協力体制を「チーム小笠原」として整えています。
行き先の決定にあたっては、方法そのものについてもクラス内で議論があったようです。
学生 宍戸さん:多数決そのものには、実は肯定的ではありませんでした。
小笠原以外の意見はどうしても少数になってしまいますし、過半数だからと進めてしまうとその人たちが心から楽しめない可能性があると思っていて。
最初は多数決以外の方法で決めようという流れでしたが、32人いるとどうしても1人2人、別の意見は出てきます。
プレゼンを通して十分に話し合い、判断軸を共有したうえで申し込み期間から逆算し、最終的には多数決という形を取りました。
チーム小笠原と連携しながら進めた、学生主体の準備プロセス
教育旅行の実施時期は、2024年の10月でした。
最終候補地を決めるまでの間もクラス内では、何度も話し合いを重ねながら検討を進めていったといいます。
学生 松永さん:最初は、船の運航を担っている小笠原海運に連絡を取り、その後小笠原専門の旅行会社の方にも情報を共有していただきながら協力して進めていきました。
連絡した時点では、クラスの中でもまだ小笠原は複数ある候補地の一つという段階でした。そこから保護者や学校に説明するための資料を作成する必要がありましたが、当時は自分たちだけでは知識が十分とは言えず、次に観光局の方々にも相談することにしました。観光局担当者さんと打ち合わせを行い、インターネットだけでは分からない情報を教えていただきました。その情報を学校に持ち帰ってクラス全体で共有しながら検討を進めていった、という流れです。
事前準備が不安を整理する土台となった
旅行前、生徒たちはそれぞれ異なる視点を持っていました。事前に確認しておきたかった点について伺いました。
学生 松永さん:個人的に気になっていたのは、24時間の船移動でした。
長時間の移動という点 で、楽しみな気持ちもあれば、体調面で大丈夫かなと考える部分も正直ありました。
学生 坂本さん:自分自身については、あまり大きな不安はありませんでした。
どちらかというとクラスメイト全体のことが気になっていました。体調面や船移動に不安を感じている人もいたので、みんなが安心して参加できるかどうかは意識していました。
学生 虫明さん:医療面のことは気になっていました。体調を崩した場合、離島ではどう対応するのかという点や長時間の船移動についても、事前に確認しておきたいと思っていました。そうした不安をお伝えすると、一つひとつ丁寧に説明してくださって「気になることがあれば、いつでも連絡してください」と言っていただけたことで気持ちの整理ができました。
学生 宍戸さん:一番大きな懸念は、天候不良による欠航の可能性でした。
そこは自分たちの意思ではどうにもならない部分なので、過去の状況を調べたり、万が一の場合の対応についても考えたりはしました。最終的には「できる準備はすべてしたうえで、小笠原を目指したい」という共通認識に落ち着いたと思います。
学生 梅本さん:大型船に乗る経験がなかったので、移動中の過ごし方も含めて少し不安はありました。天候についても事前には想像しきれない部分がありましたが、準備の段階で丁寧に説明していただいたことで安心感が持てました。
実際に乗ってみると、不安よりも楽しさやワクワクの方が大きくなって「行けてよかった」と素直に感じられたのを覚えています。
小笠原村教育旅行インタビュー|かえつ有明高等学校
体験内容は異なっても、共通して挙がった印象
現地での過ごし方は、生物や歴史、環境、交流といったテーマごとに分かれていました。
体験した内容は班によって異なったようですが話を聞いていく中で、それぞれの記憶に強く残っている場面があることが伝わってきました。
学生 梅本さん:生物班ではシュノーケリングを体験しました。
海自体は好きでしたが、深く潜る経験はあまりなくて最初は少し緊張していました。ただ、ガイドの方がとても話しやすく、海のことや生き物について丁寧に教えてくださって。魚が「見える」のではなく「そこにいる」と感じられたことが印象的でしたし、イルカを見ることができたのも忘れられません。
交流班では、染め物体験やタコの葉細工など、形に残る体験もありました。自分とは違う場所の文化に触れること自体が新鮮で、強く記憶に残っています。
学生 虫明さん:資料館で働いている方に声をかけたところ1〜2時間ほど小笠原の魅力や、ここで働くようになった背景をお話ししてくださいました。小笠原にいる方々一人ひとりが、この場所に対する思いを大切にしていることが伝わってきて。
こちらの話にも耳を傾けてくださり、対話として時間を共有できたことがとても印象に残っています。
小笠原村教育旅行インタビュー|かえつ有明高等学校
学生 宍戸さん:自然や歴史ももちろん素晴らしかったですが、それ以上に強く残ったのは「人」の存在でした。
ガイドの方々の熱量や想いに触れる中で「本州から来て、ここで働きたいと思った」という話を何度も聞いて。実際に関わってみてその気持ちがよく分かると感じました。
帰りの船で夕日を見ていたとき、現地の方々と一緒に2時間ほど話す時間があって「もう少しこの場所にいたい」と思った感覚は、今もよく覚えています。
学生 坂本さん:印象に残っているのは、生き物や環境と共存しようとする考え方です。
人間のためだけに整えられた環境というよりも「イルカのために」「自然のために」という視点が、ごく自然にあると感じました。観光客だからという距離の取り方ではなく、同じ場所にいる人として接してもらえた感覚も残っています。
学生 松永さん:生物班と交流班の両方を体験しました。
これまで海に入る機会は多くなかったので、魚が泳いでいる様子を見るだけでも新鮮でした。 最も印象に残っているのは、島を離れて帰るときの風景です。 出航の瞬間の景色や空気感は、今振り返っても心に残っています。
体験を整理し、共有することで見えてきた学び
体験後には、生徒同士による発表の場に加え保護者も参加できる任意の共有会が行われました。それぞれがA4一枚を目安に、小笠原での出来事や感じたことを言葉にし、体験を振り返ったといいます。
学生 松永さん:行けたことや滞在そのもの以上に、企画の段階からメンバーとして関われたことが大きかったと思います。
大人の方とやり取りをしながら進めていく経験や企画から現地でのプログラムまでを通して考え続けたこと自体が、すべて学びになっていました。
先生:教育旅行を通して強く感じたのは、人との関わりの中で学んでいく姿です。
島の方々とのやり取りや外部の大人と連絡を重ねる中で、生徒たち自身が考え、判断し、相手と向き合う場面が多くありました。 体験だけでなくその過程を振り返り、共有できたことも含めて今回の教育旅行の大きな成果だったと感じています。
小笠原村教育旅行インタビュー|かえつ有明高等学校
不安があるからこそ、『どう備えるか』を考える
教育旅行の実施にあたっては「安全に帰ってくること」を大前提として考えていました。そのうえで保護者や校内の先生方からは、さまざまな受け止め方があったことを先生に伺いました。
先生:検討の過程では「慎重に考える必要がある」という声もあれば「不安だけを理由に判断を止めてしまっていいのか」という意見もありました。どちらも自然な反応だと思っています。
私自身が意識していたのは、予定どおりに進まない場面があったとしても、その過程を含めて経験として受け止められるか、という点が重要だと感じていました。生徒たちは、自分たちで調べ、考え、準備を重ねてきました。その積み重ねがあったからこそ結果だけを見るのではなく、経験全体として振り返ることができたと思っています。
小笠原村教育旅行インタビュー|かえつ有明高等学校
学びを「体験」で終わらせないための設計
かえつ有明高等学校の小笠原教育旅行は、現地での体験そのものだけで完結するものではありません。
- 行先選定
「どこに行くか」ではなく「どのような体験をしたいか」を言葉にし、判断軸をクラス全体で共有。費用や安全性、実行可能性を整理しながら多数決に頼りきらない合意形成を模索したプロセス自体が、学びの一部になっていました。
- 準備
24時間の船移動や医療体制、天候といった不安を抱えたまま進むのではなく、それらを言語化し外部の関係者と対話しながら一つずつ整理。生徒自身が情報を集めクラスに持ち帰って共有することで「行けるかどうか」ではなく「どう備えるか」を考える視点が育まれていきました。
- 体験後
体験後には、生徒同士の発表や保護者も交えた共有の場を設け、A4一枚で経験を振り返ります。体験を感想で終わらせず自分たちの判断や関わり方を見つめ直すことで、教育旅行は「行って終わり」ではない学びとして定着していきました。
インタビューを通して行き先を決める段階から振り返りに至るまでの過程が、学びとして自然につながっていたように感じられました。
小笠原村を教育旅行として検討する先生方へ
先生:ぜひ行ってください。笑
小笠原に限らず教育旅行を検討する際には、不安や懸念が出てくるのは自然なことだと思います。だからこそ「できるか・できないか」で結論を出すのではなく「どう備えるか」「どう支えるか」を生徒と一緒に考えていくことが大切なのではないでしょうか。
準備の段階から関わることで、その時間も含め教育旅行として意味のある経験になると信じています。
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