小笠原村には、毎年さまざまな学校が教育旅行として訪れます。
本インタビューは、そうした学校の先生方にお話を伺い、小笠原という場所でどのような学びが生まれているのかを実践の視点から紹介しています。
今回お話を伺ったのは、立教小学校で教育旅行を長年担当してこられた川上先生です。立教小学校では、5年生の教育旅行の行き先として小笠原村を選ぶ取り組みが23年にわたり続いています。イルカと泳ぐ、南島へ上陸する、海洋センターでウミガメを放流する。体験の一つひとつは印象的ですが、川上先生が何度も言葉にされたのは「体験そのもの以上に、島の方々との交流が強く残る」という点でした。
そしてその学びは、旅行の期間だけで終わりません。
帰校後に全体発表を行い、次に行く学年へ引き継ぐ。授業でも地域の暮らしや自然を扱い、体験と学習が往復する導線が組み込まれています。
本インタビューでは、立教小学校が小笠原村を選び続けてきた理由、印象に残る体験、子どもたちの変化、そして安全面の準備までを川上先生の言葉を軸に振り返っていただきました。
小笠原村教育旅行|立教小学校
小笠原の教育旅行に携わり始めたのはいつ頃からですか
川上先生:
小笠原の教育旅行は今から23年ほど前に始まり、今年で23回目になります。
立教小学校では、5年生120名が複数のコースに分かれて体験学習を行っており、小笠原もその一つです。
毎年、学年の中からおよそ50名前後が希望して集まり、コースとして成立してきました。当時の校長が「やりたいコースがあるなら、まず下見に行きなさい」という方針だったこともあり、もう一人の先生と現地を訪れました。
その際に強く感じたのが「イルカと泳がせたい」という思いと、「簡単には行けない場所だからこそ得られる体験がある」ということでした。
小笠原村教育旅行|立教小学校
小笠原を教育旅行先として選んだ決め手は何でしたか
川上先生:
立教小学校では、自然を軸にした教育旅行として、四万十川・知床・沖縄の離島(伊平屋島)・屋久島など、複数のコースを同時に実施しています。小笠原もその一つで「行きたい」と手を挙げた子どもたちが集まって成立してきたコースです。
小笠原は、島という環境もあり、簡単には行けない場所です。
その分、自然の中へ実際に入り込み、時間をかけて体験すること自体が学びになりやすいと感じています。下見の際に、現地の方々がとても具体的に協力してくださり、初めてでも実現のイメージが持てたこと、そして人の温かさに触れられたことも印象に残っています。
船旅や島内活動の安全面について、不安はありましたか
川上先生:
最初は、船旅そのものに不安がありました。当時(2003年頃)は「おがさわら丸」の片道が約25時間半かかっており、「本当に大丈夫なのか」と感じたのを覚えています。
現在は3代目のおがさわら丸になり、所要時間はおよそ24時間になりましたが、長時間の船旅であることに変わりはありません。
それでも不安を上回るだけの魅力が現地にあると感じ「小笠原へ行く」という選択肢が、教育旅行のコースの一つとして現実的になっていきました。
現地プログラムで、特に印象に残っている体験を教えてください
川上先生:
海での体験はやはり大きいです。イルカと泳ぐこと、南島に上陸すること、兄島海中公園や沈没船のポイントで足ひれを使って泳いだりシュノーケリングをしたり。
海洋センターでウミガメの学びや放流する体験も、なかなかできないので子どもたちも楽しんでいます。それからナイトツアーや島の農業体験でレモンを使った「レモンカード(ジャムづくり)」も印象的です。
海で撮った写真をお渡しして、子どもたちの顔写真付きの“世界に一つだけのラベル”を作っていただき、それを貼ってお土産にする。こういう体験は、帰ってからも話が続きますね。
小笠原村教育旅行|立教小学校
先生ご自身が、今も強く思い出すことは何ですか
川上先生:
アクティビティももちろん素敵ですが、一つひとつの内容以上に「島の方々が温かい」ということが僕の中では一番の体験です。
子どもたちには、どんな反応や変化がありましたか
川上先生:
海での体験や島の方々との出会いを通して、新しい自分を見つけたような表情を見せる子もいます。家族で後日あらためて小笠原を訪れたという話を聞くこともありました。
出港の際、島の方々が船を見送りに来てくださる場面では、感動して涙を流す子もいます。「なかなか行けない場所に行けた」という実感が、さまざまな体験と結びついたまま持ち帰られているように感じます。
そうした体験をそのままにしないために、帰校後は11月に各コースの発表の時間を設けています。自分たちが見てきたこと、感じたことを整理し、次に行く4年生や保護者へ伝える場です。
一人ひとりが必ず一つテーマを決めて調べ、発表することで体験を振り返りながら学びとして言葉にしていきます。
行く前の段階でも、社会の授業などで気候や暮らしを扱い「住んでみたい地域はどこか」「その地域のメリット・デメリットは何か」といった視点など考えます。4年生では小笠原諸島を扱う単元もあり、授業と体験が行き来する形で少しずつ理解が積み上がっていきます。
その経験があるからか、中学校になって遊びに来た卒業生に「何が一番楽しかった?」と聞くと「グローバルエクスカーション(小笠原)」と答える子が多くいます。
学校説明会でも、保護者の方から「この体験に行かせたい」という声をいただくことがありますし、卒業文集に小笠原のことを書く子も少なくありません。体験がその場限りで終わらず、時間をかけて残っていることを実感しています。
受け入れ体制や島の方々とのやり取りで印象に残っていることはありますか
川上先生:
毎年、小笠原への教育旅行を重ねていく中で、同じガイドさんが担当してくださるようになりました。立教の子どもたちの様子を理解した上で、温かく接してくださっています。
優しく声をかけるだけでなく、時には遠慮なく厳しく叱ってくださる場面もありますが、それが命を守るためだということを子どもたち自身も感じ取っているようです。
宿や食事も、アレルギー対応を含めて丁寧に対応してくださっています。
一番うれしかったのは、出発の時に「さようなら」ではなく「行ってらっしゃい」と送り出され、また訪れた際には「お帰りなさい」と迎えられることです。
島の方々へクリスマスカードや年賀状を送ったり、お返事をいただいたりと交流が続いています。
今年、台風で第2便が行けなくなった時には役場の方がお土産を送ってくださったり、村長さんが学校に来てお話をしてくださったりして現地に行けなかった子どもたちも、そのお話をもとに取材をして発表会につなげることができました。
小笠原で「海に入る」体験を実現するために、どんな準備をしていますか
川上先生:
5年生の120人が5つのコースを自由に選びますが、小笠原は毎年約50名ほど希望があります。台風で行けなかった年もありましたが、それでも翌年の希望者は集まりました。
海の体験に向けては、事前にPTAで説明をして持ち物を整え、学校のプールでシュノーケリングの練習をします。足ひれは普段使わないので、放課後に2日間以上の練習を重ねます。
現地では、到着後に背の立つ場所でまず練習を行い、無理のない形で段階を踏んでいきます。ライフジャケットも、現地の事業者の方が到着日から帰る日まで用意してくださっています。
学校では、3年生の段階で着衣水泳を取り入れ、水辺の安全について事前に学ぶようにしています。体育科の教員や立教大学水泳部の学生が関わり、必要に応じて安全確保や苦手な子の指導を行っています。
小笠原村教育旅行|立教小学校
学びを「体験」で終わらせないための設計
立教小学校の小笠原教育旅行は、体験の濃さだけで成立しているわけではありません。インタビュー全体を通して見えてきたのは、「事前」「現地」「事後」を一本の学習導線として捉える設計です。
- 事前:安全と体験の前提を整える
- 現地:体験と出会いを“学びの言葉”に変える
- 事後:発表で終わらせず、次学年へつなぐ
シュノーケリング練習、持ち物準備、着衣水泳など、海の体験を“当日だけの挑戦”にしない工夫が積み上げられています。
イルカ、南島、ウミガメ放流などの自然体験に加え、ガイド・宿・役場の方々との接触が、子どもたちの記憶に残る「学びの核」になっています。特に「命を守るための厳しさ」まで含めた関わりが、体験の意味を深めています。
一人一テーマの調べ学習と発表が、体験を整理し直す機会になります。さらに次に行く学年へ伝えることで、学びが“自分の経験”から“学校の文化”へと拡張していきます。
この往復設計があるからこそ、卒業後も小笠原の記憶が残り、文集や会話の中で再び立ち上がってくる。そんな循環が静かに生まれているように見えました。
小笠原村を教育旅行として検討する先生方へ
川上先生:
「悩んでいるなら、まず行ってみると分かることが増える」という実感でした。
ガイドブックで理解したつもりになるより現地に宿泊し、人と話し、自分の言葉に落とし込む。そこから初めて「学校として何を持ち帰りたいか」が輪郭を持つ、という感覚だと思います。
船旅の不安、行程の安全、保護者への説明など、検討時に気になる点は多いはずです。
一方で小笠原は、相談先と信頼関係をつくっていくほど選択肢が増え、学校の目的に合わせて組み立てられる余地も広がっていきます。
先生方自身が体験することで、子どもたちと同じ目線で驚きや発見を共有しやすくなります。そうした関わりがあると、教育旅行が行事で終わらず、学校の学びとして継続していく形になりやすいように感じています。
遠くて簡単には行けない場所だからこそ、行った先で出会える景色や言葉が、長く残ることがあります。検討の時間そのものが、次の学びにつながっていくんだと思います。
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