教育旅行

小笠原村教育旅行インタビュー 帝京科学大学

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小笠原村には、毎年さまざまな学校が教育旅行として訪れます。
実施されてきた学校の先生方にお話を伺い、小笠原という場所でどのような学びが生まれているのかを実践の視点から紹介しています。

本インタビューでは、帝京科学大学(生命環境学部・アニマルサイエンス学科)の青木先生に小笠原で継続して行われてきた実習についてお話を伺いました。

小笠原は、固有の生態系をもつ海洋島(誕生以来、大陸と陸続きになったことがないため、独自の進化を遂げた島)であると同時に日本でホエールウォッチングが始まった場所でもあります。帝京科学大学(生命環境学部・アニマルサイエンス学科)では、こうした“自然”と“人の営み”が重なるフィールドを実習地として、春の時期に学生を連れて訪れる取り組みを長く継続してきました。

本記事では、実習のねらいやプログラムの組み立て、学生が現地で何を見て、どんな観点を持ち帰っているのかについて、青木先生に伺った内容をもとにお届けします。

小笠原村教育旅行|帝京科学大学

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小笠原を実習地として選び、長く訪れ続けている理由を教えてください

青木先生:小笠原は、海洋島として独自の生態系が発達している点に大きな特徴があります。

青木先生は、そうした自然条件に加えて、「人と鯨の関係を考える場所としても重要だと感じている」と語ります。

青木先生:かつて日本で行われていた商業捕鯨が1988年に停止された後、小笠原は日本で最初にホエールウォッチングが始まった地域でもあります。
鯨を「利用する対象」から「共存を考える対象」へと捉え直してきた、その歴史自体が学びの題材になると感じています。そうした背景もあって、小笠原は鯨類の行動観察という自然科学的な視点と、人の関わり方を考える社会的な視点の両方を同時に扱うことができるフィールドだと考えています。

小笠原村教育旅行|帝京科学大学

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アニマルサイエンス学科では、どのような学びを目指しているのでしょうか

青木先生:この学科では、動物と人とのより良い関係、いわば“共生”をどう実現していくかという点を大きな軸にしています。対象としているのは、自然環境下に生息する野生動物だけではありません。伴侶動物※であったり、飼育・展示されている動物であったりと、人の暮らしや社会と関わるさまざまな動物を扱っています。その中で人がどう関わっているのか、どのような距離の取り方が適切なのかを考えていく学科です。

学科には、それぞれ異なる専門分野を持つ教員が在籍しています。私はその中で、自然環境下の動物を担当していて、鯨類の行動生態をテーマにしています。

実習では、エコツーリズムを通して人と動物の関係を考えてもらうことも目指しています。小笠原実習は、教室で学んだ内容を実際のフィールドで確かめるための場です。
講義で学んだことが現地ではどのように見えるのか、自然環境の中で動物と向き合いながら改めて考えてもらう、そのための実習だと考えています。


※伴侶動物(コンパニオンアニマル):人の生活に寄り添い、家庭や社会の中で共に暮らす動物のこと。近年では、犬や猫など家庭で暮らす動物たちをペットという表現ではなく、人生を共にするパートナーとして認識する伴侶動物という語が用いられることが増えています。人と動物の関係性をより重視する概念として使われています。


小笠原実習は、どのような構成で行われているのですか

青木先生:実習には、講義や実際の観察が含まれています。初日は、現地指導員の案内を受けながら陸上での観察を行い、展望台から鯨類の出現状況を確認します。遠くの海域を双眼鏡で観察し、個体数を数えるといった定点観察も取り入れています。

別の日には、漁船に乗って洋上での調査を行います。実際に海に出て、ザトウクジラなどの鯨類を探し、行動を観察する時間です。さらに、実習期間中には「自由課題」の日も設けられており、学生はそれぞれ関心に応じて陸上ツアーや海のツアーに参加します。

さらに、小笠原の自然や人との関わりについて、小笠原ホエールウォッチング協会の辻井研究員から講義を受ける機会も設けられており、観察・体験・講義を組み合わせることで、実習が断片的な印象で終わらないよう全体が構成されています。

小笠原村教育旅行|帝京科学大学

小笠原村教育旅行|帝京科学大学

天候など、不確実な条件がある中での実習はどのように考えていますか

青木先生:天候については、毎年いちばん気になるところです。海に出られるかどうかはその日の風や波の状況次第なので、事前に完全に決めきることはできません。
その点については、あらかじめコントロールできないものとして受け止めています。自然を相手にする以上、計画通りにいかないことも含めてフィールド実習だと思っています。

実際、過去には洋上に出られず予定を変更したこともありました。その際は、港での作業や観察に切り替え、ロープワークを教わるなど現地で実施できる内容に切り替えたこともありました。そうした判断や変更ができたのは、小笠原のガイドの方々や船長さんが「それならこういう形でやりましょう」と一緒に考えてくださったからです。
現地の協力があってこそ、実習として成立してきました。

実習の時期を2〜3月に設定している理由も、鯨類の来遊時期と天候条件のバランスを踏まえたものです。それでも必ず観測ができる時期というわけではありませんが、条件が揃わない時でもどう判断し、どう対応するかを学生に経験してもらうことが実習の大切な学びの1つだと考えています。

実習を通して、学生の取り組み方や視点にどのような変化を感じますか

「実習を終えた後の学生の様子を見ると、やはり変化をはっきり感じます。特に多いのは、観察の仕方が具体的になる」ことだと青木先生は話します。

青木先生:例えば、陸上から見た時と実際に海に出た時とで、同じ鯨でも見え方が全然違います。風や波の影響、人の動きによって行動がどう変わるのかをその場で体感することで「なぜ今日はこうだったのか」と考えるようになります。また、自由課題でツアーに参加した学生からは、ガイドの方の説明や島のルールに目を向けた記述も多く見られました。生き物を見るだけでなく、それを守るためにどういう仕組みがあって誰が関わっているのか。そうした視点は、現地に行って初めて実感できる部分だと思います。

実習を通して、学生は全員少なからず視点を変えて戻ってくる。調査や研究に対して、自分ごととして向き合う姿勢が生まれていると感じているそうです。

現地での受け入れ体制について、印象に残っている点はありますか

青木先生:小笠原での実習が観光ではなく教育の場として成り立ってきた背景には、現地の協力体制があると感じています。官民の関係者やガイドの方々が連携して支えてくださっていて、私たちはそれを『チーム小笠原』と呼んでいます。

天候によって予定が変わる可能性がある中でも、学生の実習を優先して考えていただく場面が何度もありました。例えば、洋上実習の日程をあらかじめ柔軟に空けておいてもらったり、その日の波の状況を見ながら、船長さんが出航時間を調整してくださったりと、その都度、現場で判断しながら対応していただきました。
「この日は海に出られないかもしれないけれど、もし最後の日の午前中に少しでもチャンスがあれば出しましょう」と言っていただいたこともありますし、ガイドの方からも「この期間は調整できるようにしておきます」と声をかけていただいたこともあります。

そうした一つひとつの対応のおかげで、学生が学びに集中できる環境が整ってきたと感じています。実習をここまで続けてこられたのは、現地の皆さんの理解と協力があったからだと思っています。

小笠原村教育旅行|帝京科学大学

小笠原村教育旅行|帝京科学大学

実習後のレポートや、学内での共有はどのように行っていますか

「実習後には、学生にレポートを書いてもらっています。鯨類の観察結果だけでなく、島のルールや観光の在り方、人と自然の関係についてどう感じたかなど、それぞれの視点でまとめてもらうようにしています」と青木先生は話します。

実際のレポートには観察した生き物のことだけでなく、その背景にある仕組みや人の関わり方にまで目を向けた内容が多く見られました。

その中の一つとして、ある学生は、小笠原ホエールウォッチング協会の辻井研究員による講演や観察を通して鯨類の調査が「見るためのもの」ではなく、動物への負荷を抑えながら長期的に記録を重ね、地域の保全意識や観光の在り方につながっている点が印象に残ったと振り返っています。調査と観光・保全が分断されているのではなく、現地では一体のものとして運用されていることに気づいた、という内容でした。

また別の学生は、終日課題で南島に上陸した体験を通して厳格に定められたルールの意味を実感したと記しています。決められた道を外れないことや人数制限が設けられている理由を景観や生態系を守るための仕組みとして捉え「守るために制限がある」という考え方が印象に残った様子がうかがえました。

外来種対策について触れた学生もいました。現地で話を聞く中で、固有の生態系を守るためにさまざまな取り組みが行われていることを知り、その難しさも含めて考えるようになったといいます。
将来、何らかの形で関わる機会があれば自分も貢献したいと感じたという言葉からは、学びが個人的な関心へとつながっている様子が伝わってきました。
*当時の学生の感想ですので、現在の事実と異なる場合があります。

青木先生:また実習に参加した学生が、次に参加する下級生に向けて体験を共有する場も設けています。私が説明するよりも実際に行った学生の話の方が、リアルに伝わる部分が多いと感じているからです。

学生自身が体験を振り返り、他の学生に伝える機会を設けている点からも実習を「行って終わり」にしない設計が意識されていることが伝わってきました。

学びを「体験」で終わらせないための設計

今回、帝京科学大学の青木先生に小笠原で継続して行われてきた実習についてお話を伺いました。インタビューを通して印象に残ったのは、鯨類の行動観察と人との関わりを同時に扱うフィールドとして小笠原という場所を選び、そこで実習を重ねてきたこと自体が学びの土台になっているという点でした。

天候や条件に応じて柔軟に判断しながら現地と連携し、学生を継続的にフィールドへ送り出してきた。その継続的な実践が、実習の質を支えています。

鯨類の行動観察という専門的なテーマにとどまらず、人と自然の関係、観光の在り方、ルールの意味までを一続きで捉える設計。それを教室ではなく、実際の場所で体験させている点に、大学教育としての確かさが感じられました。「見る」「感じる」「考える」を現場でつなぐ。そうした実施の積み上げの中で学生の視点が確かに育ってきたことが、今回のインタビューから伝わってきました。

小笠原村教育旅行|帝京科学大学

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小笠原村を教育旅行として検討する先生方へ

ぜひ学生を連れて、一度行ってもらえればと思っています。

小笠原は、日常の学習環境とは異なる場所だからこそ現地でしか得られない体験があります。学生の時期であれば、現地で起きる出来事そのものを学びとして受け止められますし、そこで得られる経験は大きいと感じています。

ページ運営者

小笠原村観光局

小笠原村観光局は浜松町に事務所を置き、旅行会社・メディア対応、イベント実施などにより小笠原観光の活性化・マーケティング活動を行っています。

https://www.visitogasawara.com