近年巨大な勢力の台風が発生したり、『爆弾低気圧』などと呼ばれる大型の低気圧によって、世界のあちこちで大きな被害が起こっていますね。
こんな時、太平洋の孤島・小笠原に暮らす人々の生活はどうなっているのでしょう?
今年の夏(2019年)も波乱続きだった小笠原の台風事情を、現地よりご紹介させていただきます。
台風発生による、定期船おがさわら丸の運航変更
通常、おがさわら丸の運航は6日間を1クールとして運航されています。
1日目 11:00 東京・竹芝桟橋出港
2日目 11:00 父島・二見港到着
3,4日目 父島滞在
5日目 15:00 二見港出港
6日目 15:00 竹芝桟橋到着
東京~小笠原間1000キロの距離を24時間かけて運航し、父島に3泊した後に、再び24時間かけて東京に戻ります。
ですが、夏から秋にかけての台風発生時や、春先に北海道沖で発生する『爆弾低気圧』と呼ばれる大きな低気圧の影響で海が時化ると、おがさわら丸の運航は随時変更になります。
父島到着後、小笠原近海に台風が近づく予報になると、父島に3泊せずに、予定を繰り上げて東京に向け出港します。2泊になることも1泊になることもあるし、時には到着日に折り返し運航となることも。
逆に台風の進路予報によっては、東京出港日を1~3日遅らせての運航になることもあります。
もともと組まれている、6日間のスケジュールの中で調整できるように運航しているのです。
『なんとか調整してやっと休みが取れたのに、小笠原での滞在が減ってしまうなんて!』
って思いますよね・・・?
小笠原へ観光でいらっしゃる方はもちろん大切なのですが、島民の食料や郵便物などのすべてがおがさわら丸によって運ばれています。船が来ないと島民は生活物資を失うことになるので、海況が悪くなってもなんとか運航できるように、6日間の中でスケジュールを調整しているのです。
ゴールデンウィークと夏の繁忙期には、おがさわら丸は父島での折り返し運航が続けて行われます。
着発運航
1日目 11:00 東京・竹芝桟橋出港
2日目 11:00 父島・二見港到着
同日 15:30 二見港出港
3日目 15:30 竹芝桟橋到着
着発運航が連続して行われる夏の間は運航日程の調整・変更ができなくなるため、船が『欠航』になることもあるのです。
都市伝説で「小笠原に行くと船が欠航になって帰れなくなるよ」という声をよく聞きます。果たして、帰れない=欠航はどれくらいの頻度で起きるのでしょうか?
2016年 3便/64便中
2017年 1便/61便中
2018年 1便/62便中*データは小笠原チャンネルから算出)
いずれも夏季の着発運航時期の台風による欠航のみでした。
つまり、台風の影響がなければめったに欠航は無いんです!
スーパーの棚が空になる
おがさわら丸の到着が数日遅れる、もしくは欠航になるということが島内の防災無線で放送されると、家族の食卓を司るお母さんたち、飲食店、宿を営む方々は一斉に商店に向かいます。
みなさんが次の入港日までの食材を計算して購入しているので、予定よりも船が遅れることがわかると追加購入が必要になるのです。
葉物野菜はもともと入港日の数時間で売り切れとなりますが、普段は入港直前でもたくさんある玉ネギ、ニンジン、ジャガイモといった常備野菜、リンゴやオレンジといった果物もなくなります。残っているのはニンニクと生姜くらい。
野菜だけでなく、牛乳や豆腐、パンなどのロングライフ商品も売り切れてしまいます。
いまの時代に、スーパーの棚がこれだけすっからかんになる所って他にはないでしょう。
船の養生
南島観光やドルフィンスイム、ダイビングなど、海でのアクティビティを運営している『遊漁部』の業者さんや漁師さんは、時間をあわせて船の養生を行います。
船と港をつないでいるロープが強風や高波で切れてしまっては大変なので、各船が養生用の太いロープを持ち寄ってしっかりと固定します。船によって甲板の高さが違うので、お互いのロープが擦れて切れてしまうことのないように、ロープを張る順番も決まっているのです。
大型台風の接近時はそれでも心配で、各船長さんたちは強風の中、船の無事を確認しに出かけることもしばしば。
台風養生は毎年何回か行われるので慣れていると言えばそうではありますが、毎日のルーティンとは違う作業。作業終了後も『本当に大丈夫だろうか?』という心労。心身ともに疲労は大きいのです。
停電問題
毎回、吹き荒れる強風に懸念されるのは停電です。
島の中心街から離れた地区の住人は、パソコンや携帯電話など充電を必要とする機器の予備充電を行い、普段閉まってある懐中電灯の準備をします。
停電が起こるとストックしてある食品の詰まった冷蔵庫を開けるのがご法度になるので、クーラーボックスに缶ビールを移し替える人も(笑)
商店や宿の集中する大村地区や都営住宅・職員住宅などの団地が集まる清瀬地区と比べて、二見湾の反対側に位置する扇浦・小曲地区は樹木が多いので、倒木による停電の可能性が高くなるのです。
それでも最近は、丸1日停電なんてことはなくなりました。
SNSが発達しているおかげで、電気屋さんが頑張ってくれている様子をうかがい知ることもできます。
『ご迷惑おかけして申し訳ありません』なんて言われるけれど、いやいや、嵐の中寝ないで停電個所を探し、復旧作業を続けていただいてありがたい限りです。
こんなやりとりができて嵐の中で働く人々の顔が垣間見えるのも、小さな島ならではかもしれませんね。
台風に浮き立つサーファー
台風情報が流れてひとしきり建物や船の養生、食料の確保などが終わると、嬉々として動き回るのがサーファーくんたち。
日頃、海水浴やシュノーケルを楽しむ人々でにぎわうビーチがクローズ状態になる中、サーフボードを積んだ車やバイクの往来が活発になります。
波情報を共有するライングループなどもできていて、ここぞとばかりに出陣です。
水深の浅くなっているサンゴ礁にウネリがあたって発生する波。
普段のシュノーケルでサンゴの様子を知っている私のような人から見ると、波に巻かれたらどんな大怪我になるかと怖くて足がすくむ思いです。
でも、いい波に乗れて大満足の彼らの表情を見ていると、その恐怖を克服して得た充実感というのは大きいのでしょうね。
台風一過
台風が過ぎ、遊漁船の養生が解除されて海のツアーが再開されると、通常の様子に戻った感じがします。
それでも海況が急に回復することは少ないので、ツアーをキャンセルする方もいます。逆に、一回くらい遊覧体験をしなきゃと、ご自身の体調を心配しながら酔い止め薬を服用して、ウネリの残る沖へと出かけていく方も。
おがさわら丸の出港日にゲストを送り出すツアー業者さんや宿の方は、『次は凪のときにまた来てね』とか『いつも時化てるワケじゃないから、小笠原を嫌いにならないでね』などと声をかけ、『南国の台風』を経験して島の人々との一体感を感じた方々は『絶対リベンジします!』と言っておがさわら丸に乗船していきます。
送り出す島人の『また来てね』という思いと、帰っていく観光客の『また来たい』という思いが交差する出港日。
台風一過の出港日には、さらに強く感じられます。
Bonin Blue と称される小笠原の青い海が際立つ夏。台風に当たるも八卦当たらぬも八卦、です(笑)
もし台風に当たってしまっても、ぜひそれを楽しむ勢いで遊びに来てくださいね!
Mermaid Cafe オーナー
あらいたかみ
小笠原の海に魅せられて、1998年より小笠原に移住。
ダイビングインストラクターとしての仕事を引退した後、少女の頃の夢『手作りケーキとおいしいコーヒーの店』を移動販売車で始める。
Instagram:mermaid__cafe
Facebook:Mermaid Cafe(マーメイドカフェ)
Twitter:MermaidCafe2
Youtube:Mermaid Cafe
小笠原の生活を綴ったブログ『マーメイドのひとりごと』公開中
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