亜熱帯の島である小笠原にも冬は訪れる。
内地に比べると寒暖の差はそれほどでもないが冬にもなると気温はだいぶ下がり、ダウンを羽織って、マフラーを巻く人も出てくる(島民にとって15度以下はかなり寒い)。
空や海の色合いも温暖な季節に比べると少し単調になる。雨や風の強い日も多くなる。そして多くの島民は暖かい春や夏が待ち遠しくなる。しかし小笠原の冬には冬の良さがある。今回はそんな小笠原の冬について紹介してみようと思う。
正月といえば大晦日に家族団欒でコタツにみかん。除夜の鐘に年越しそば、そして初詣。三が日は駅伝でも見ながら家でゴロゴロというのが一般的なイメージだ。
しかし多くの小笠原の島民にとって正月は一年の中で最も忙しい時期の1つである。正月の島は冬を暖かい小笠原で過ごしたいという人達で毎年溢れるので、その年最初の繁忙期に当たる。これに合わせてイベントなども開かれ、大晦日には花火を伴うカウントダウン、そして元旦には海開きと子ウミガメの放流がある。食事を提供する宿によっては特別なおせちメニューを用意してくれる。
年末や正月あたりは天気が荒れ模様になることが多いが、2017年末は恵まれていた。
12月31日は珍しく晴天で、2017年最後の夕日はクジラがチラチラと顔を出す海の向こうの水平線に眩い光を放ちながら沈んだ 。
元旦から天気は少し曇り始めたが、町のお祭り広場では海開き、そして福引イベントが開催された。目玉景品はおがさわら丸のチケットで、引き当てようと多くの人が集まっていた。広場の裏の前浜では子供達が海に放たれる子ウミガメに懸命に声をかけていた。
また、小笠原では正月に合わせて島で育った「島っ子」達の成人式が行われる。今年も何人かの島っ子達が帰省し、生まれ育った島で成人の日を迎えた。正月便は普段より一日多い滞在日数なので訪れていた人たちはゆっくりと小笠原を満喫できただろう。
怒涛の正月便が過ぎると島の中も落ち着き、島民達は正月を迎えることができる。
正月中も営業していたお店なども休みとなり、皆それぞれ束の間の休息となる。それでも多くの島民は正月気分を満喫しようと、おせち作りや書き初め、餅つきと凧揚げなどをしてめいっぱい遊ぶことを忘れない。
1月の下旬からは*ドック期間(おがさわら丸が点検のために内地のドックに入る)ということもあって、観光客も減るので島は基本的に静かだ。
*1月19日に入港し、次は2月8日まで約3週間おがさわら丸が来ない
冬の海の代表といえばザトウクジラである。
冬から春にかけては子育てをするためにザトウクジラが小笠原を訪れているので海のツアーや、ウェザーステーションなど見晴らしの良い場所から見ることができる。
プシューっと海面に吹き上がるブローは日常的に見ることができるし、運が良ければ迫力の大ジャンプを見ることもできる。遠くからでもクジラの存在感は圧倒的である。ホエールウォッチングを冬の日課にする島民も多いのではないだろうか。
サーフィンもこの時期に楽しめるものの1つに挙げられる。
小笠原にサーフポイントはいくつかあるが、波は天候や風に左右される。夏や秋のサーフィンは主に台風などが発生するタイミングになるが、冬の間は定期的に波が入ってくる。なので多くの島のサーファー達もこの時期は海に入って波乗りを楽しむ。
さすがに寒いので(だいたい20度前後)ウェットスーツを着るが、それでも内地に比べればだいぶ暖かい水温で楽しめるはずだ。波乗りをしない人でも、海岸から彼らのライディングを見ているだけで十分に楽しめる。夏とは違う海の魅力を感じることができる。
さらに冬の小笠原の良いところはレジャーだけではない。
小笠原の冬はたくさんの 地元野菜の収穫時期でもある。その代表格といえばトマト。トマト嫌いの人でも島のトマトなら食べられるという人も少なくない。その他にもセロリや葉物、大根など多くの野菜が店頭に並ぶ。
冬は一年の中で最も地元農産物が多く出回る時期かもしれない。地元で採れた新鮮な野菜を食べるこの時期を島民は楽しみにしている。
とまあ、このようなものが小笠原の冬の風物詩と言えるだろう。
「小笠原で一番好きな季節は?」と問われて「冬」と答える人は少ない方かもしれない。
それでも冬にはその時の島の良さがある。冬には冬でしか見れなかったり、満喫できないものがある。眩しい太陽に照らされる真夏もいいが、小笠原の冬もなかなか捨てがたい。
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