『アウトリガーカヌーで父母交流!人力で父島・母島横断ボヤージュ』
2018年7月、小笠原返還50周年事業の企画により、父島と母島にそれぞれ一艇ずつの新しいアウトリガーカヌーが届きました。OC-6(オーシー・シックス)と呼ばれる、6人乗りのレース用カヌーです。
母島の真っ白なカヌーは『Beluga』(ベルーガ…シロイルカ)、ブルーラインの入った父島のカヌーは『ike-kai』(イケ・カイ…海を知る)と名付けられました。

新しいカヌーで母島に行きたい!
レース用にデザインされたカヌーはスタイリッシュでカッコよく、漕いでみるとやはりそのスピード感は圧倒的.! 過去にカヤックやSUP(スタンドアップパドルボード)で母島まで渡った経験のある父島の青年団・要会メンバーからは、ナチュラルに
『このカヌーで母島まで行ってみたいねー!』
『これならきっと、母島まであっという間に行けちゃうね!』
という言葉が発せられました。
そしてそのおしゃべりは現実に向けて動き出し、海が春から夏に変わって穏やかになる6月中旬に焦点をあてて調整を行います。10年前のチャレンジは6人で全工程を漕ぎましたが、今回は途中でメンバー交代をしながらできるだけ多くのメンバーで漕いで行こうという計画。これにより、全工程を漕ぐ体力には自信のないレディースの参加も可能になりました。
ゴールデンウィークが明けた頃から遠征に向けた体力&チームワーク強化練習を組み、早朝や夕方に集まっての練習が活発に行われていました。
天候不良により、計画延期
ところが、6月中旬に予定を組んでいた日程は停滞前線の影響による時化で中止に。練習を繰り返しながら気持ちを上げてきたクルーたちは、ガックリと肩を落とします。
でも、ここまで積み上げてきた気持ちと団結力はこの夏の間にカタチにしたい!
ミーティングを重ね、夏の繁忙期である定期船の着発運航が終わり、週末におがさわら丸の入港がないタイミングの8/31~9/1に予定を組み直しました。
最終決断の8/29、出港2日前。天気の急変もなく出港できるであろうという判断で準備に入り、それを母島メンバーにも伝え、父島から母島へ向かう往路に参加する母島のクルー4名が、出発前日にははじま丸で父島入りしました。
小笠原神社に参拝してから出発
8/31早朝。空は真っ暗、星の輝く朝4時半に、扇浦・レストハウスに集合。 先ずは全員そろって扇浦の神様が宿る『小笠原神社』へ航海の安全祈願を行います。
クルーの安全を願って家族や仲間が編んでくれた、たくさんのレイも奉納。

レストハウスに戻り、今回の航海上の潮の流れと風向きを確認します。リーダーのイチ君から、航路予定と潮汐をクルーに伝えられます。新月明けの朝なので、海は大潮。南方に低圧部があるので、うねりの入ってくる可能性もあり。

母島の真北を目指すのではなく、西寄りに航路をとって進みたい、などなど。
航路予定を確認した後は、クルー全員でカヌーを波打ち際まで降ろします。

そして、奉納したレイをクルーとカヌーへ。

クルーの奥様方からは、見送りのフラ『丸木舟』をプレゼント。

豪雨と虹に見舞われて出港
さあいよいよ出港というときに、雨が降り出しました。
そして、またたく間に豪雨! とても派手なお清めです(笑)
実はこのカヌー ike-kai は、雨と虹を呼ぶ船なのです。 父島での新艇お披露目会のときには雨を、元旦・朝漕ぎのときには虹をもたらしてくれました。
なので、出港を見送ったメンバーは慌てることなく青灯台へ移動します。伴走船『アイランドクィーン』へ乗船、手作りのフラッグに見送られて、先に出発したカヌーを追いかけます。

予想よりも悪い海況
二見湾から外洋に出てみると、予想を上回る荒れ模様となりました。 父母間の60キロは簡単ではないということを思い知らされるかのように、波がカヌーを襲います。 9月に葉山で行われるレースに出場する強者メンバーを先発隊にしたのは大正解でした。
そして、その厳しい漕ぎ出しを応援してくれるかのように現れた虹。

空と海とパドラーの一体感が美しい!
初挑戦・外洋でのウォーターチャンジ
島を過ぎて波が少しおさまったところで、漕ぎ手を交代します。『ウォーターチェンジ』と呼ばれる、パドラーチェンジ。
進むカヌーの前方に船をまわし、先ずは3人が海に飛び込みます。その3人のところへカヌーが到着すると同時に、カヌーから3人が海へ飛び込み、待ち受けていた次のパドラーが空いたシートへと上がります。
カヌーから降りたパドラーを船にピックアップしてから再びカヌーの前方へまわり、残りのふたりが同じように交代します。 舵取りを務めるリーダーのイチ君だけは、カヌーに乗りっぱなし。
湾内では何回か練習していましたが、風と波のある外洋で実践するのは全員初めて。 みんな緊張しながらも、無事に交代することができました。
ベタ凪の海をパドリング
南島を過ぎてからはウネリが多少あるものの風はほとんどなく、気持ちのいいパドリングを続けられました。
伴走船での待機組は、海に飛び込んで涼をとったり、横になって体力の温存に努めたりして過ごします。


母島海域の難所・わんとねを渡る
母島の北西部に『わんとね』と呼ばれる海域があります。潮や風がぶつかり、複雑な流れの起こる海域。船乗りにとっては、舵取りに緊張を抱える難所です。
出発から5時間ほど経った頃、それまで凪ぎていた水面に白波が立ち始めるのが見えてきました。この厳しい海域を渡ってもらうのは、やはり先発隊の強者メンバーです。

10年前には2時間ほどかかったという『わんとね超え』
今回は、トレーニングを重ねたメンバーとレース仕立てのカヌーのおかげで、1時間ほどでクリアしました。
母島・脇浜に到着
わんとねを超えてからの漕ぎ手は母島メンバーに交代、ホームビーチへのゴールを目指します。

再び凪に戻った海を滑るように進み、沖港へ入って脇浜へ到着!

母島クルーの仲間たちから、約57キロの海を渡ってきたクルーへと、レイのプレゼントが贈られました。

5:45に扇浦の要岩を出発し、脇浜到着は13:12.、約7時間での往路となりました。
疲れたというよりは楽しかった一日!
夜は父島カヌークラブと母島カノークラブの親睦を兼ねた夕食会を開催しました。ビールも進みますが、翌日にも同じ行程を控えているので20時には解散。ほとんどのメンバーが21時には就寝していたようです。
月ヶ岡神社に参拝してから母島を出港
一夜明けての集合場所は、5時に月ヶ岡神社。
父島・扇浦を出発した時と同じく、母島の神様にご挨拶してから出発しようというリーダーの提案により、月ヶ岡神社の神様にご挨拶してからの出港としました。

復路を伴走してくれるのは、母島の朋漁丸(ほうりょうまる)です。

クルーの体調を気遣い、テントを張って日陰を作ってくれていました。感謝!

そして母島カノークラブのみなさんは、ike-kai の兄弟船・ベルーガとシロカヌーを用意してくれ、沖まで見送りに出てくれます。

白ベースのカヌーが3艇並んで走る様子は美しく、カヌーを通じて交流できた私たちの気持ちをそのまま表現してくれているようでした。
予想以上にきつい復路
母島西の奇岩・四本岩の手前で母島のみなさんと別れたあとは、帰路に向けてパドリングに力を入れます。
前日の体感と予報天気図より往路よりは荒れてくるだろうと予測していましたが、思った以上に厳しい潮となりました。
通常、カヌーの舵取りは6番手の漕ぎ手である『ステアマン』が行うのですが、一番手と二番手に舵取りサポートをリクエスト。漕ぎ方を変え、3人で舵を取りながら進みます。
わんとねの威力を見せつけられる
出発からすでに厳しい潮模様、待ち受ける『難所・わんとね』はどんなことになるのかと緊張しながら、強者メンバーに交代します。
母島の北端に差しかかると、これでもかというくらいカヌーに襲いかかる波の連続。カヌー内に入る水を掻き出す作業も続きます。 いつの間にか、カヌーの船首にかけられていたレイも、わんとねに呑まれて消えていました。

そして伴走船の船首からは、わんとねの終わりが見えないと思われるほどに続く、時化た海が見えています。
疲労を隠せないクルーたち
伴走船に待機しているクルーたちも、前日からの疲労を引きずって船酔いに見舞われがちに。口数も少なくなります。
時折船をカヌーに近付けてもらってパドラーたちに声援を送っていましたが、それは漕ぎ手だけでなくすべてのクルーに対しての声援だったように思います。
母島から父島への中間地点を過ぎて再び強者メンバーでのパドリングになると、彼らに課せられた課題は『2時間連続パドリング』
南島近辺での潮は再び厳しくなるであろうとの予測ができたので、レースの練習も兼ねて(!?)他のメンバーを引っ張ってもらおうというはからいです(笑)
しかし、頼りの強者メンバーも、さすがに1時間を超えると背中に疲れが見えてきます。 漕ぎ手のペースが落ちるのを感じると、伴走船を近づけて声援。
『カッコいいよー!』のかけ声がかかると、パワーの復活するパドラー陣(笑)

応援、とても大事です(笑)
父島の南側にそびえたつ『ハートロック』が見えてくると、父島から『おかえり!』と声をかけられているようで、それもまた励みになりました。

レディースチームで感動のゴール
『ゴールはレディースで決めたら?』という声が上がり、南島海域を超えて海況の落ち着いたところでレディースに交代。ゴールを目指します。
海が凪ぎて楽勝かと思いきや、向かい風に苦戦。 レディースにパドルを任せたメンズは、ゴールを待ち受けるため、伴走船のスピードを上げて青灯台へと向かいました。
湾内に入り『けっこうきついね』と言いながらパドルを続けるレディース・パドラーを励ましてくれたのは、ゴールの扇浦・レストハウスに掲げられたフラッグでした。

『おかえりって書いてあるよ!』
『要会のロゴもある!』
気持ちが高ぶって泣きそうになり、それ以上は口に出せずにパドルに力が入ります。
前日に伴走してくれたアイランドクイーンも、その日のツアーを終えてゴールを見届けにやってきてくれました。

そして、ついにゴール!

先回りして駆けつけたクルーとその家族・仲間からの盛大なシャワーを浴びながら、出発地であり最終ゴールの扇浦に到着しました。


要会のステキなオハナ(家族)たち
父島からクルーを送り出して父島で待っていたオハナ(家族)のみなさんは、2日間で約115キロを漕いできたクルーをねぎらうためのごちそうを用意して待っていてくれました。

なんてうれしいはからい!
『私も一緒に漕いできた気分!』という声も上がっています。
パドラーが海に出ている間中その安全を気にかけ、子供たちに伝えながら、ゴール用のフラッグ(旗)を作ったり食事を作ったりと、島の中で一緒に走ってくれていたのです。
母島のクルーを送り出したみなさんも、きっと同じ気持ちでクルーの無事を祈っていたことでしょう。
アウトリガーカヌーで繋ぐことのできた、父島・母島間。その距離が、たくさんの人の想いによってとても近くなったように感じます。
今回の遠征を応援・サポートしてくれたみなさん、いろいろとありがとうございました。
クルー全員、感謝の気持ちと大きな絆を抱えることができてしあわせです。
本当にありがとう!


Mermaid Cafe オーナー
あらいたかみ
小笠原の海に魅せられて、1998年より小笠原に移住。
ダイビングインストラクターとしての仕事を引退した後、少女の頃の夢『手作りケーキとおいしいコーヒーの店』を移動販売車で始める。
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