前回に引き続き、今回もOEDC(小笠原生態系保全に基づく開発委員会)の活動についてお伝えします。
第2回は「生態系保全」と「林業振興」について。
2019年11月にOEDCでは『生態系保全型林業のご提案』と題した進言書を、国、東京都、小笠原村に対して提出されたそうです。
小笠原では公共事業として取り組まれることの多い「生態系保全に関する各事業」から発生する樹木資源などを林業として活かし、地域内の6次産業化を図ることも目的の一つに挙げられてます。
なんと160年をかけて外来種を固有種や在来種に置き換えていくロードマップまで作成されています。
今回はOEDC事務局でもあり、林業振興の最前線を担う『小笠原グリーン株式会社』の横山さん(世界遺産保守保全事業部 部長)と橋尾さん(環境保全課 森林緑地係)にお話を伺います。
インタビュー
小笠原マガジン編集部
小笠原で林業って聞いたことがありませんでした。初の試みですか?
横山
実現できれば恐らく戦後初になると思います。戦前には開拓行為と林業が密接に繋がっていたので発達していたようですね。現在の父島をみると島土の大部分が2次林になっていますが、薪炭材として移入された外来種が多く繁茂している現状なんかをみると島経済の勢いが伺えます。
小笠原マガジン編集部
生態系保全型林業という言葉は初めて聞きました。造語ですか?
また、目指していく林業像や目標を教えてください。
横山
おっしゃる通りです。勝手にネーミングしました(笑)
ドイツやスイス、ニュージーランドの林業に思想が近いのですが、小笠原は世界自然遺産ですので一歩踏み込んだ提案にしています。簡単にいうと「生態系保全のついでに林業もする」といった感じでしょうか?
太平洋戦争から75年間外来種を抑制することができず、既に外来種に依存した生態系になりつつある現状では大規模に駆除することはできません。私たちの提案には生態系影響を最小限に留めながら世界自然遺産らしい小笠原づくりをしていくアイデアを盛り込みました。
併せて、今まで自社で培ってきた有識者ネットワークとOEDCが機能してきたことで「島内の横のつながり」が強化されてきました。この効果は大きく、対立軸になりがちな「環境保全」と「観光」を繋げる自立型産業を創造させ、コミュニティ全体の持続性を高めていく私たちの提案に現実味が帯び始めてきました。
当面の目標としては、現時点で存在する公共事業を改変してもらうこと。
例えば、外来種駆除事業で生み出される樹木資源を森から出して、加工し、島内に適正価格で卸していく体制づくりなんかが大切でしょうね。
絶対にブレたくないのが、関わる事業者全ての採算性を担保させることで、流通経路上で必要以上に利益を出せる業種や仕組みを作らないことが大切だと思います。勿論、独自性を出したり付加価値を高めて利益率を上げるような取組には大賛成ですよ(笑)
例えば、ウクレレやギターなど楽器を生産できるようになれば、「南洋材として品質面の優位性が持てること」は勿論「希少性」や「ストーリー性」が付けやすい小笠原だからこそ、可能性が拡がると思います。
小笠原マガジン編集部
4月25日のイベントには小笠原グリーンさんも参加されるそうですが、生態系保全型林業の島内周知も目的にさせてるそうですね。(こちらのイベントは延期となりました)
どんなことをされるのですか?
横山
当社は「ツリークライミング体験」と「伐採&製材ショー」、折りたたみできる「ガーデンテーブル」を30基作って飲食ブースの周りに並べることの3点を今回のミッションにしています。
また、(一社)創造再生研究所で定期開催している「ライブドリアード」というシンポジウムの誘致を手伝わせていただきました。
ライブドリアードは限界集落や地域振興、国産材の有効利用、失われつつある伝統工芸など様々な思いテーマを、パネルディスカッションと音楽ライブを融合させることで来場者の敷居をさげたシンポジウムになっているように感じています。パネリストには農水省の事務次官や林野庁長官などが出演することが多いようです。過去の音楽ライブでは国産材(杉)で作ったギターや、外来種アカギで作ったギターやウクレレなども使用されました。
このシンポジウム、10年以上に渡り全国各所で開催されておりますが、今回は小笠原で開催されることになります。このウクレレは母島産アカギで作られたウクレレで、ライブドリアードで使用された物ですよ。
当社提供の体験施設については「林床を荒らさない樹木伐採」と「樹木の加工工程」を実際に見てもらい生態系保全型林業のイメージを島の人に持ってもらうことを目的にしていますが、何より体験者が楽しめるよう工夫してます。是非お立ち寄りください。
特に島っ子には積極的に体験してもらいですね。体験を通して彼らの担うべき島の将来像が想像できたら素敵だなと(笑)
小笠原マガジン編集部
ツリークライミングは大人から子供まで楽しめそうですね?木の上はどんな気持ちですか?
橋尾
仕事柄、木に登ることが多いのですが「小笠原でこの仕事ができて良かった」と思っています。というのも、とにかく景色が綺麗なんです!
今日ように青空と海が一望できる現場は最高ですね。
それに木の上で聞こえる音。
風の音、波の音、鳥の声、西ノ島の噴火音(笑)が木の上だと良く聞こえます。時にはすぐ傍に小鳥が遊びに来てくれることも(笑)
イベント当日は「前浜のモクマオウ」と「お祭り広場入口のモモタマナ」の2本に登れるようにします。
ロケーションとしてはイマイチですが、ぜひ皆さんに島の楽しみ方を一つ増やしていただきたいです。
ちなみに誰でも登れるよう私たちがサポートしますのでお気軽にお越しください。
小笠原マガジン編集部
木に登って伐採をするのは大変ですよね。大変=高いというイメージがあります。
コストを掛けてでも特殊伐採をする意義を教えてください。
橋尾
生態系保全型林業は小笠原グリーンの中でも私たち森林緑地係が担います。実はコスト意識はメンバー全員の共有事項にしていて、登るのは最終手段にすることがほとんどです。
高所作業車が使えるなら高所作業車を手配しますし、高枝ノコも良く使います。伐倒方向に固有種や希少種がある場合でも、まずは伐倒方向を変えられるか?とか樹木移植を検討したりします。
あらゆる手法を検討した上、発注者に対して「生態系への影響面」と「コスト面」との両面をご提案するようにしています。
私たちの仕事は社内でも伐採中心のイメージを持たれることが多いのですが、メンバーとしては「伐採は手段でしかなく、生態系保全とコストの落としどころを見極めること」を目的に行動するよう心掛けてます。
更に今回のイベントテーマに戻りますが、様々な理由で伐採した樹木は資源として未来に繋げていきます。比較的近い将来には「林床を傷つけずに集材する手法」も確立できそうなので実現すれば生態系保全機能が向上します。
こんな想いや取組もイベントの中で皆さんにお伝えしていければと(笑)
こちらの記事で紹介している『ライブドリアード in Ogasawara』イベントは延期となりました
OEDC
小笠原生態系保全に基づく開発委員会
地域資源を利活用することで、産業を多様化させることを目的に設立しました。
メンバーは島内の各産業分野を担う経営者など。 また、生態系保全のための各分野を専門とする有識者がアドバイザーと参加しています。
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