太鼓を習いに学校に集まる島っ子たち
月曜日の夕方は、島っ子=島の子どもたちの「太鼓」の練習日。
バチを持った子どもたちが小笠原小・中学校の音楽室に集まります。
校舎から数時間にわたって聞こえてくる元気な音を、旅行中に耳にした方もいるのではないでしょうか。

様々なイベントで、のびのびと太鼓を叩いて楽しむ(撮影:Hiroyuki Aokiさん)
小笠原では現在3つの太鼓の団体が活動しています。
これまで各団体をリレー形式でご紹介してきましたが、いよいよ今回ご紹介する「太鼓会」で最後となります。
▼▼第一弾「小笠原太鼓同好会」の記事はコチラ▼▼
▼▼第二弾「ぼにん囃子」の記事はコチラ▼▼
今回は、父島の子どもたちに太鼓を伝える『太鼓会』についてご紹介します。
10年前、『太鼓会』は活動をスタートしました。子どもと大人が共に太鼓を囲みながら、様々な楽器を取り入れた音楽を楽しむ団体です。
島っ子が太鼓を叩ける『場』を守りたい
学校の音楽室で練習、島の様々なイベントに参加
『太鼓会』ではどんな活動をしているのか、代表の小田川明子さんにお話を伺いました。

青空の下で最若手メンバーと太鼓を打つ『太鼓会』代表の小田川さん(右) (撮影:太鼓会)
小田川さん「10期目を迎えた『太鼓会』の現メンバー数は34人です。入会の条件は子どもだけでなく、大人でも子どもたちと太鼓を楽しめる人ならOK。保育園生から60歳まで和気あいあいと活動しています」
練習は週1回小笠原小・中学校の音楽室で行っており、小田川さんのほか、長く経験している大人や保護者が教えたり、サポートに入ったりしています。

初心者から上級者まで、3つのクラスに分けて練習している(撮影:市野雄一さん)
活動内容としては、毎週の練習のほか、島の各種イベントに出演しています。
返還50周年のパレードにも出演しました。
秋分の日には太鼓会の仲間を中心に誰でも参加OKな『秋分どんどこ』というイベントを開催し、山や海岸など屋外で飲食しながら太鼓を叩き、大自然の中で音楽を自由に楽しみます。
八丈島の太鼓団体にも立ち上げの相談
『太鼓会』設立のきっかけは、他の団体が行っていた子ども向けのクラスが諸事情により継続できなくなったこと。当時は別の太鼓団体『ぼにん囃子』で活動していた小田川さんですが、なんとか子どもたちが太鼓を楽しめる『場』を存続したいと思いました。
小田川さん「太鼓が盛んな島ですが、島っ子たちはほとんど参加していませんでした。島の有志や小笠原の太鼓のルーツである八丈島の、太鼓団体「よされ会」にも相談し、会を立ち上げました」
太鼓を通じて垣根を超えて、世界を広げる
小笠原太鼓に共通する太鼓の基本的な叩き方は、2人1組の両面打ち。
『太鼓会』ではこの基本スタイルにギター、ベース、ドラムやアフリカの打楽器を取り入れてみるなど、柔軟にボーダレスに『太鼓会』スタイルを作り上げています。
小田川さん「音楽を通じていろいろな垣根を超えて一緒に楽しめることが嬉しい。打楽器つながりで世界を広げることで、大人も子どもも人生が豊かになると思います。小笠原の太鼓のルーツがある八丈島とも太鼓を通じた繋がりができています」

2021年、父島の小港園地から「24時間チャレンジ八丈太鼓」にオンライン参加(撮影:太鼓会)
小田川さんは八丈島の太鼓団体『よされ会』にも島という垣根を超えて所属しています。
2020年は母島から、2021年は父島から、八丈島で毎年開催されている「24時間チャレンジ八丈太鼓」にもオンラインで出場しました。小笠原と八丈島、そして世界中がつながる時間となりました。
自分たちの文化に誇りを持ってほしい
『太鼓会』には、父島の子どもたちが、太鼓を通じて他の島と交流できる場を作りたいという目的もあります。
小田川さん「サッカーなどのスポーツは島嶼大会で交流できますが、文化的な交流はありません。自分たちの島の文化に誇りをもち、仲間意識を持ちながら、お互いの刺激になるような関係を作れる場を作りたいです。音楽は世代も言葉も関係なく繋がれる素晴らしいツールのひとつです」
2022年の4月に島に滞在した時に、小田川さんに声をかけてもらって「太鼓会」の練習に参加しました。太鼓経験が長い子どもたちと大人のクラスです。
先輩メンバーを中心に、ワークショップ形式でオリジナル曲作りをしていました。ワンフレーズずつ、太鼓を実際に叩きながらリズムを決めていきます。
新しい音を生みだす場は、集中力とほどよい緊張感に満ちた空間。
自分たちの文化を育てていく瞬間に立ち会うことができました。
太鼓がある『場』がつながりをつくる
村民会館での和太鼓との出会い
島に住んで26年になる小田川さん。移住してまもなく和太鼓と出会いました。
当時奥村地区にあった村民会館でピアノを弾いていたら、和太鼓をひとりで練習していた知り合いに「打ってみる?」と声をかけられて、叩いてみたのが和太鼓との出会いです。それまでは触ったこともありませんでした。
小田川さん「管楽器などは音を出すまでに練習が必要ですが、太鼓はとりあえず叩けば音が出るので、すぐに一緒に楽しめるのが魅力でした。」
その後小田川さんは、太鼓仲間が新しく結成した太鼓団体『ぼにん囃子』にバンドを始める感覚で立ち上げから参加。
夏の盆太鼓や小笠原太鼓、オリジナル曲などを叩いていました。お子さんの産前産後はお休みしましたが、小笠原での生活の中に、ずっと太鼓は共にあるといいます。
子どもたちの記憶に残るPVを制作
小田川さんは、太鼓には『場』が大事だと考えます。
小田川さん「ギターは家で個人練習できますが、一般家庭に和太鼓を置くのは難しいので、『場』が必要です。また、音響機材がなくても大きい音をだせるので、『場』さえあればすぐに披露することができます。」

小笠原返還50周年記念パレードにも参加(撮影:Hiroyuki Aokiさん)
主に島のイベントという『場』で太鼓を披露してきた『太鼓会』ですが、2020〜2021年は新型コロナの影響で、ほとんどのイベントが中止になりました。
そんな中でもできることは、と考えたのが、子どもたちが島を離れてからも思い出に残るPV作りです。島の子どもたちの多くは、高校を卒業すると進学や就職のために、育った島を離れることになります。
小田川さん「会の島っ子たちの希望をぜひ叶えてあげたいという、島のイベントでご縁のあった映像関連会社の方々の心意気と、島のイベントを支える団体の協力により実現しました」
オリジナル曲のレコーディングから始まり、ドローンによる空撮を取り入れて、ダイナミックな小笠原の自然と太鼓を体感できる映像を作りました。空を飛んで、小笠原を旅しながら太鼓を聴いているような気分になる壮大な作品です。
こちらからご覧になってみてくださいね!
映像制作提供:「BANZAI」「父島音響」
バチ作りプロジェクトも進行中
太鼓会による小笠原の木材を活用した「バチ作りプロジェクト」も現在進行中です。
ギンネム、アカギ、モクマオウ、タマナなどの島の木材を利用して、プロ使用にも耐えうるバチを試作しています。

小笠原で駆除対象となっている外来種(ギンネム)の木をバチに加工する(撮影:許景順さん)
小田川さん「作ったバチは、自分たちで使うだけではなく、太鼓を通じて交流した島外の人に贈るという活用法も考えています。母島の小笠原太鼓同好会や、八丈よされ会の代表者、太鼓会に縁のある和太鼓プロ奏者にも相談し、アドバイスを頂きながら、垣根を超えた小笠原のプロジェクトとして進めています」
子どもたちの生命力の象徴のような、伸びやかで元気な太鼓の音。
島やジャンルといった垣根を超えて活動をする『太鼓会』は、子どもたちがいつか島を離れても、戻って来られる「場」と「文化」を育んでいます。

元島民ライター
のなかあき子
2015年〜2017年春まで父島居住。
2児の母。島生活で太鼓とパッションフルーツに目覚める。
父島のおすすめスポットは「製氷海岸」「コペペ海岸」「三日月山展望台への脇道」。
著書に『東京のDEEPスポットに行ってみた』(彩図社)など。
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