自然

アホウドリが戻ってきた!新しい繁殖地を小笠原に移す壮大なプロジェクト

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小笠原というワードで検索してもなかなかアホウドリという言葉はでてこないかもしれません。

しかし、バードウォッチャーのかたならご存知だと思いますが、特に冬から春にかけて小笠原では、海上を飛ぶアホウドリの仲間が多く見られます。

見られるのは、クロアシアホウドリ、コアホウドリ、そしてアホウドリの3種類です。

アホウドリ01

アホウドリ、強い風をとらえて何千キロも飛び続けることができる「風の王者」。

アホウドリ02

クロアシアホウドリと2羽のコアホウドリ、2種類とも聟島で繫殖している

アホウドリは翼を広げると2m以上、体重5キロにもなる大型の海鳥です。

1年のうちの殆どを海の上で過ごし、陸地に降りるのは卵を生み、ヒナを育てるときだけです。その時以外は、海の上で餌をとり、海の上で浮かんで寝ます。

アホウドリの歴史

昔、伊豆諸島鳥島(以下鳥島)や小笠原諸島聟島列島では、たくさんのアホウドリが繁殖していました。しかし、開拓のためにやってきた人々が、美しい羽毛を海外に輸出するために乱獲し、一時は、絶滅宣言がされました。

その後、1951年に鳥島でわずかな生き残りが発見されると、長谷川博さん(現:東邦大学名誉教授)による保護活動が始まりました。その後、山階鳥類研究所など多くの方々の保護活動により、少しづつ数を増やし、絶滅の危機は逃れました。
しかし、まだ安心できるわけではありませんでした。この鳥島は活火山の島で、いまでも噴火の危険性があるのです。(一番最近では1900年に噴火)もし、アホウドリが繫殖している時期に噴火したら、今度こそアホウドリは本当に雑滅してしまうかもしれないのです。

アホウドリのひっこし

そこで、安全な小笠原諸島の聟島(以下聟島)に繁殖地を復活させようという取り組みが2008年から行われました。(もともと、聟島にもアホウドリは繁殖していましたが、鳥島と同様に乱獲により絶滅してしまいました。)

その方法は、アホウドリのヒナをつれて来て人の手で育て巣立ちをさせる。という前代未聞の方法でした。アホウドリには、生まれ育った島に帰ってきて繫殖するという性質があります。

そのため、鳥島で生まれて間もないヒナを聟島に運んで、人の手で餌を与え、育てて巣立たせれば大きくなって聟島に帰って来てくれるはずです。悪く言えばヒナをだますのです。そして、大きくなって聟島に帰ったきたアホウドリたちが繫殖すれば、聟島にアホウドリがどんどん増えていくと考えました。

そして、2008年から山階鳥類研究所の出口博士を現地リーダーとしてヒナの人工飼育が始まりました。(ヒナの人工飼育は、2008年から5年間行われ70羽のヒナが育てられました。)

2月初旬に鳥島から生後約30日のヒナをヘリコプターで聟島に移送して、巣立ちを迎える5月下旬まで飼育スタッフが毎日エサを与えて育てました。

アホウドリ03

聟島に到着したヘリコプターからヒナの入った木箱を降ろす

アホウドリ04

鳥島から運ばれて聟島に放されたヒナ、生後約30日、体重は3キロほど

聟島は戦前は人が住んでいましたが、今は無人島です。全ての物資は父島から漁船で運び、飼育スタッフは、テントを張ってキャンプ生活しながらヒナを育てました。

アホウドリ05

聟島のキャンプサイト あたりまえだが無人島には電気も水道も無い。

アホウドリの親鳥は、海で捕らえたイカや魚などを飲み込み、胃の中で半分消化した状態のものを口移しでヒナに飲み込ませます。ヒナの目の前にエサを置いても、ヒナは食べることはありません。親鳥と同じようなことをするために、私たちはイカやイワシをフードプロセッサーでミンチ状にしたものを作り、シリコンガンとゴムチューブを使ってヒナに飲み込ませることにしました。

アホウドリ06

朝5時からエサ作りは始まる。作ったミンチをカートリッジにつめているところ。

アホウドリ07

ヒナの口からミンチを流し込む。慎重に行わないと吐いてしまうこともある。

ヒナの成長にしたがって、イワシやイカを丸ごと与えるようにもしました。週に1回ほどの体重測定をしてヒナの体重管理を行いエサの量を調整します。

2月初旬につれてきたとき3キロほどだったヒナも5月には5キロを超えるようになります。

そして、5月の下旬に海へと飛び立ち巣立ちをしました。

大きく育ったヒナ、ふわふわの綿毛も換羽してつるっとした大人の装いになった。

そして、5月の下旬に海へと飛び立ち巣立ちをしました。

アホウドリ08

巣立ったヒナ、しばらくは海に浮かび少しずつ北へと向かう。

帰ってきたアホウドリ

巣立ったアホウドリはアリューシャン列島付近の海域まで飛んで行き、オキアミなどの豊富な餌を食べ、3歳くらいになると生まれ故郷の島に帰ってきます。

しかし、世界でも例のない試みに、本当に戻ってくるのか心配でしたが、2011年2月に初年度に巣立ったアホウドリが3才になって帰ってきくれたのです。

そして、2012年には初のカップルができました。このカップルは、イチロー君とゆきちゃんとしてNHKの「ダーウィンが来た」などでも取り上げられたのでご存知の方もいるかもしれません。イチロー君とゆきちゃんは2013年からは産卵しましたが、3年間は卵は孵ることはありませんでした。しかし、2016年、4回目の卵は無事に孵化し、待望のヒナが誕生しました。

仲良く寄り添うイチロー君とユキちゃん。

わたしたちの手で育てたアホウドリのヒナが立派に成長し、ヒナを産んでくれたことで、小笠原諸島の聟島が、アホウドリの繁殖地として80年ぶりに復活したのです。わたし達はこのヒナに希望をこめて「ミライ」と名づけました。

ミライは、すくすくと育ち5月下旬に無事に巣立ちました。

アホウドリ10

ミライ(中央)とイチロー君とユキちゃん(左の2羽)右の2羽も帰ってきたアホウドリ。

その後もイチローくんとゆきちゃんは毎年ヒナを産み育てています。

きっと数年後にはミライをはじめ、新たな世代のアホウドリが、生まれ育った小笠原で新しい物語を紡ぎ始めてくれるはずです。

私はこの活動に2011年から参加してヒナの飼育をしながら撮影を行い、「僕はアホウドリの親になる」という本にまとめました。
そして、小笠原でのアホウドリの引っ越しが始まってから10年の今年、2018年10月2日から10月29日まで品川のキヤノンギャラリーにて写真展を行われます。

最初は記録のために撮り始めた写真ですが、いつのまにか成長を見守る父親のような気持ちになって撮影をするようになりました。写真展には飼育の様子から新たに誕生したヒナの姿など約30点の写真が展示が展示されます。
ぜひ皆さんもヒナの親のようになった気持ちで写真を見ていただけたら幸いです。

写真展のお知らせ

写真展:アホウドリ復活への挑戦 ~小笠原で行われたこと
https://cweb.canon.jp/gallery/archive/minami-albatross/index.html

日程:2018年10月2日(火)~10月29日(月)
時間:10時~17時30分 日・祝日 休館
場所:東京都港区港南2-16-6 キヤノン S タワー 1F 地図

トークイベント開催のご案内

日時:2018年10月6日(土)13時30分~15時
会場:キヤノン Sタワー3階 キヤノンホール S
参加方法:事前予約不要
定員:200名(先着順、参加無料ですが立席になる場合もあります)

南俊夫

写真家・ガイド

南 俊夫

22歳の時に初めて小笠原を訪れる。大学卒業後、設計会社に勤めるが27歳で父島に移住。以来、20年のダイビングガイドをしながら小笠原の自然を撮影し続ける。2011年からはアホウドリの保全活動にも従事しする。
作品は国内外の広告、出版物で使われ、2015年にはアメリカのネイチャーズベストマガジンの表紙を飾った。
著書
「イルカ海に暮らす哺乳類」あかね書房 
「僕はアホウドリの親になる」偕成社
受賞歴
2000年
ナショナルジオグラフィックフォトコンテスト入賞
2008年
米、ネイチャーズベストマガジンフォトコンテストOcean部門入賞
2011年
米、ネイチャーズベストマガジン・Ocean Vewsフォトコンテスト2nd Place
2015年
米、ネイチャーズベストマガジン・Ocean Vewsフォトコンテスト11nd Place

写真展
2012年6月
「コニカミノルタ環境企画展OGASAWARA未来へつなぐ自然展」 新宿コニカミノルタギャラリー
2013年11月
「海のシェルパ展 AQUANOTE」四人展 新宿ヨドバシカメラギャラリーINSTANCE
2015年10月
「小笠原の今を知る 南俊夫写真展」葛西臨海水族園
作品は下記ウェブサイトで見ることができる。

http://toshiominami.com/