父島の港の奥に眠る「駆潜艇50号」
第二次世界大戦で潜水艦が多く使われるようになってきたときに、
その潜水艦の対策として作られたのが駆潜艇です。
駆潜艇は潜水艦の動きを探るためにソナーを備え、潜航中の潜水艦を攻撃するための爆雷を備えていました。駆潜艇50号は、太平洋戦争が終わる前年の1944年、特殊潜航艇をえい航中に米軍に追撃されて沈没しました。
後で紹介しますが、特殊潜航艇も駆潜艇から少し離れたところに沈んでいます。
沈んでいるのは、父島製氷海岸の海洋センター前あたりの水深30mほどの海底です。
製氷海岸は一面のエダサンゴの群衆が広がっていますが、少し沖に出るとサンゴは急斜面となり水深30mほどまで落ち込んでいます。
ここは湾の奥なので、透明度もあまりよくない事が多いのですが、その中に駆潜艇が鎮座しているさまは、ちょっと怖い印象もあります。
しっかりと船の全体の形は残っていますが、船の中央部分は攻撃を受けたためか、激しく損傷があります。
また残念なことに、数年前の台風でブリッジ部分は崩れてしまいました。
しかし、甲板部分にある高射砲は攻撃してきた米軍機を狙った状態なのでしょうか、空を向けてそびえています。
見られる魚はあまり多くありませんが、ここの見ものはなんといってもシロワニです。
いつもいるわけではないのですが、秋から冬にかけて見られるチャンスが多くなります。沈船をバックに泳ぐシロワニは迫力満点で、まるで映画のセットを前に泳いでいるかのような迫力があります。
特殊潜航艇「甲標的」
特殊潜航艇「甲標的」は3人乗りで大きさは約23m、電池によるモーターで時速35キロのスピードで潜航し、船主には魚雷を2基そなえていたそうです。
太平洋戦争での旧日本海軍の秘密兵器として真珠湾攻撃にも参加しました。
この特殊潜航艇「甲標的」が駆潜艇50号の後方に沈んでいます。
魚雷発射管がある船首部分と船体の半分は砂に沈んでいますが、司令塔部分には潜望鏡部分も見え、後部にはまだプロペラがしっかりと形を残しています。
この小型の潜水艇に3人の兵士が乗って誘導し、敵艦に魚雷を発射させて命中させるというのは至難の業だったに違いありません。
この特殊潜航艇は、えい航されているときに沈み、実際の戦闘には使われることもなかったので形を残したまま沈んでいるのでしょう。魚の姿もあまりなく、ひっそりとたたずむ様子からは戦争の悲しさを感じてしまいます。
美しい自然が魅力の小笠原ですが、戦争の舞台となった悲しい歴史があります。
戦跡ツアーや沈船を潜ったことをきっかけに、少し戦争のことを考えてみるのもよいかもしれません。
駆潜艇50号と特殊潜航艇「甲標的」の映像はこちら
写真家・ガイド
南 俊夫
22歳の時に初めて小笠原を訪れる。大学卒業後、設計会社に勤めるが27歳で父島に移住。以来、20年のダイビングガイドをしながら小笠原の自然を撮影し続ける。2011年からはアホウドリの保全活動にも従事しする。
作品は国内外の広告、出版物で使われ、2015年にはアメリカのネイチャーズベストマガジンの表紙を飾った。
著書
「イルカ海に暮らす哺乳類」あかね書房
「僕はアホウドリの親になる」偕成社
受賞歴
2000年
ナショナルジオグラフィックフォトコンテスト入賞
2008年
米、ネイチャーズベストマガジンフォトコンテストOcean部門入賞
2011年
米、ネイチャーズベストマガジン・Ocean Vewsフォトコンテスト2nd Place
2015年
米、ネイチャーズベストマガジン・Ocean Vewsフォトコンテスト11nd Place
写真展
2012年6月
「コニカミノルタ環境企画展OGASAWARA未来へつなぐ自然展」 新宿コニカミノルタギャラリー
2013年11月
「海のシェルパ展 AQUANOTE」四人展 新宿ヨドバシカメラギャラリーINSTANCE
2015年10月
「小笠原の今を知る 南俊夫写真展」葛西臨海水族園
2018年10月「アホウドリ復活への挑戦 ~小笠原で行われたこと」品川キヤノンギャラリー
作品は下記ウェブサイトで見ることができる。
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