海のアクティビティ

『ユウゼン』日本固有の魚がこんなに見られる小笠原の海は凄い

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小笠原の海を代表する生き物といえば何でしょうか?
イルカにクジラ?アオウミガメなどの海のアイドル的な生き物でしょうか?
では、沢山の種類がいる魚の中では?

以前にもご紹介したシロワニや大群を作るイソマグロにマンタことオニイトマキエイなど、ダイバー憧れの名が挙がるでしょうが、忘れてはいけない魚がいます。
ユウゼンという魚です。

小笠原では、はっきり言ってどこでも見られてしまうので、ありがたみが薄いのですが、ユウゼンは日本でしか見られない日本固有種のチョウチョウウオの仲間です。

日本の中でも主に伊豆諸島と小笠原諸島が分布地で、南大東島などでも見られます。それ以外の地域でも稀に見られることもあるようですが非常にレアなケースだと言えます。

ダイバーが潜って普通に見られるのは、八丈島と小笠原といった感じでしょうか。

ユウゼン01

ペアで泳ぐユウゼン 着物の友禅染がその名の由来

日本の海で見られるチョウチョウウオの仲間は約50種類、色鮮やかで美しい模様を持ったものが多く、サンゴ礁をチョウのようヒラヒラと泳ぐ様子から、英名もButterfly fish(バタフライ・フィッシュ)となっています。

小笠原でも色鮮やかなチョウチョウウオの仲間がたくさん見られますが、その中でもユウゼンは全身真っ黒で、とても地味な魚に見えます。

しかしよく見ると、真っ黒な全身には白い縁どりのウロコ模様に、黄色く縁取られた尾びれ。実はこの模様が着物などに用いる日本伝統の染め物の「友禅」に似ていることからユウゼンという名前がついているのです。

他のチョウチョウウオの派手さはないものの、渋い色合いの落ち着いた雰囲気は、日本の固有種にふさわしく、実にシックで和風な魚と言ってもよいのではないでしょうか?

この日本を代表すると言っても良いユウゼン、水槽で海水魚を飼育するアクアリストの中では超貴重で、その値段は数万円!にもなり、海外のアクアリストにとっては憧れの的のようです。

このユウゼン、小笠原の海では、サンゴ礁の浅い海から岩礁域の深いところまでごく普通に見られます。父島の宮之浜や製氷海岸などのビーチでもシュノーケリングで見ることができます。

たいがいは、2匹のペアで泳いでいて、警戒心が薄く気が強い面もあるので、ダイバーに向かって泳いできて、まとわりついたりもします。

ユウゼン02

人懐こいユウゼン。ダイバーに興味津々、どんどん近寄ってくることもある。

そのユウゼンが、ときに30匹以上の群れになることがあるのです。
ぎゅっと玉のように固まって泳ぐ様子から、「ユウゼン玉」と呼ばれ、小笠原を訪れるダイバーの見たいものリクエストの上位に上がります。何匹からがユウゼン玉か?というのはガイドさんによるところですが、個人的感覚では30匹以上が「ユウゼン玉」と呼べるかな?10匹程度の群れだと「ユウゼン小玉」なんて呼ぶガイドさんもいるようです。

群れる理由は繁殖のためと言われていますが、(チョウチョウウオの仲間は集団で産卵する物が多い)実際に産卵の様子が観察されたことはなく、その生態はまだ謎に包まれています。

ユウゼン03

30匹以上まとまって泳ぐユウゼン玉。思わず全部でいくら?なんて数えてしまう。

ユウゼンは雑食性で、プランクトンや岩についている藻などを食ますが、他の魚の卵を食べることもあります。そのようなときに、ユウゼン玉になることがよくあるのです。ロクセンスズメダイという魚がサンゴや岩に産み付けた卵を、ユウゼンが集団になってでついばむが良く見られますが、卵を守っているロクセンスズメダイにとっては大災難としかいえません。
また、大きいユウゼン玉ができると何故かヘラヤガラという魚が中に入ってきます。ヘラヤガラは普段から他の大きな魚にひっついて泳いでいますが、これは大きな魚に身を隠し、餌となる小魚を狙っているのです。そのため大きなユウゼン玉はかっこうの隠れ家になるようです。

ユウゼン04

ユウゼン玉に溶け込もうとするヘラヤガラ(黄色い魚)

ただ、このユウゼン玉、いつでも簡単に見られるわけではないのです。
冬から春にかけてがシーズンですが、ピンポイントで決まって見られるダイビングポイントもありません。

とはいえ、一度見られると、数日続けて同じ場所で見られることもあるので、ぜひガイドさんにリクエストしてください。

この時期はザトウクジラのホエールウォッチングもベストシーズン、海中に響くザトウクジラの歌声を聞きながらのダイビングは小笠原ならでは。
ぜひ小笠原の海の絶景「ユウゼン玉」を見に来てみませんか!

南俊夫

写真家・ガイド

南 俊夫

22歳の時に初めて小笠原を訪れる。大学卒業後、設計会社に勤めるが27歳で父島に移住。以来、20年のダイビングガイドをしながら小笠原の自然を撮影し続ける。2011年からはアホウドリの保全活動にも従事しする。
作品は国内外の広告、出版物で使われ、2015年にはアメリカのネイチャーズベストマガジンの表紙を飾った。
著書
「イルカ海に暮らす哺乳類」あかね書房 
「僕はアホウドリの親になる」偕成社
受賞歴
2000年
ナショナルジオグラフィックフォトコンテスト入賞
2008年
米、ネイチャーズベストマガジンフォトコンテストOcean部門入賞
2011年
米、ネイチャーズベストマガジン・Ocean Vewsフォトコンテスト2nd Place
2015年
米、ネイチャーズベストマガジン・Ocean Vewsフォトコンテスト11nd Place

写真展
2012年6月
「コニカミノルタ環境企画展OGASAWARA未来へつなぐ自然展」 新宿コニカミノルタギャラリー
2013年11月
「海のシェルパ展 AQUANOTE」四人展 新宿ヨドバシカメラギャラリーINSTANCE
2015年10月
「小笠原の今を知る 南俊夫写真展」葛西臨海水族園
2018年10月「アホウドリ復活への挑戦 ~小笠原で行われたこと」品川キヤノンギャラリー
作品は下記ウェブサイトで見ることができる。

http://toshiominami.com/