自然

メスがオスになっちゃう!?小笠原の海に住む固有種『ミズタマヤッコ』の生態

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小笠原の海に住む固有種 ミズタマヤッコ

小笠原が何かメディアなどに紹介されるときには、必ずといってよいほどに「固有種」という言葉が出てきます。

固有種とは、その国、その地域にしか生息・生育・繁殖してない生物のことです。

前回紹介したユウゼンという魚は、主に小笠原や伊豆諸島の八丈島で見られる

「日本の固有種」ということになります。

いままでに一度も大陸と陸続きになったことのない小笠原の島々には、多くの固有種が生息しています。

それらの生物は小笠原でしか見られない「小笠原の固有種」ということになります。

有名なところでは、母島にしか生息しない鳥のハハジマメグロ、オガサワラオオコオモリにカタツムリの仲間やムニンツツジやヒメツバキといった多くの植物などが挙げられますが、これらの生き物は全て陸上の生き物です。
なかなか紹介されることはありませんが、実は海の中にも、小笠原の海にしか生息していない、「小笠原固有種」の魚が何種類かいます。

なかでもその代表格といった魚が、今回紹介するミズタマヤッコという魚です。

ミズタマヤッコ01

小笠原でしか見られない魚ミズタマヤッコ

性転換するミズタマヤッコ

この魚が最初に発見されたのは、南鳥島(マーカス)の海でした。南鳥島は父島から東に約1,000キロ離れた島です。1,000キロというと東京から父島とほぼ同じ距離ですが、小笠原村に属する島です。一般の旅行者は行くことのできない島なので、一般のダイバーも潜る機会がまったくない海での大発見でしたが、その後に、兄島付近の海中でも発見されました。

このミズタマヤッコ、タテジマヤッコ属の魚で、小笠原では、ヒレナガヤッコやトサヤッコという魚が見られます。

そして、このタテジマヤッコ属の魚の特徴の一つが性転換するということです。
どういうことかと言うと、卵から孵化して、幼魚のときはメスで、メスのまま成長して成魚になりますが、そのメスの中の一部だけがオスに変わるのです。

タテジマヤッコ属の魚はハレム呼ばれる群れを作って生活しています。

ハレムと言う通り、オスは1匹だけで、メスが複数で群れを作っているのです。

性転換すると言いましたが、このハレムの中のオスは、自分の縄張りにいるメスを囲っているのですが、このオスが死んだり、何らかの理由でいなくなると、このハレムの中にいた一番強いメスがオスに性転換するのです。

このような群れの暮らしは、ハナダイの仲間やベラの仲間など、他の魚でも見られます。

そして、面白いのは、生まれたときから水玉模様があるのではなくて、成長過程や性転換とともに体の色や模様も変化して行くのです。

ミズタマヤッコの幼魚

この写真が、幼魚時代(メス)ですが、水玉模様はどこにもなく、最初に載せた写真の魚と同じ魚とは思えません。

幼魚はこのようなカメの甲羅のような模様をしています。そして、大きくなるにつれて、甲羅模様が伸びることで、ちりめんのような模様になってゆきます。

これで大人のメスとなります。

ミズタマヤッコのメスの成魚

そしてさらに、このメスが性転換してオスになります。

体は緑かかった縞模様になり、さらに不思議なことに、背びれと尾びれには水玉柄が入ります。ミズタマヤッコという名前の由来はこのオスの模様から来ています。

もうメスの面影はどこにもありません。

ミズタマヤッコ04

ミズタマヤッコのオス

性転換するとともに体色変化する魚は他にもいますが、この変わりようは珍しいのではないでしょうか?

出会えるのは小笠原の海だけ

しかし、このミズタマヤッコ、残念ながら簡単に見られる魚ではありません。

小笠原固有種だけあって、生息数も少ないレアな魚なのです。

生息しているのが水深40m以深と、ダイビングガイドがゲストを気軽に連れて行ける水深ではありません。(通常ファンダイビングは30m以上潜ることはあまりありません。)

現在、兄島の「マンサク」というダイビングポイントの水深45mほどのところで見られるのを確認しています。
上級者のダイバーで見たい方は、ゲストの人数が少ないときにリクエストしてみてください。

あとは稀に、水深20m代にも現れる場合もありますので、それを見られたらラッキーですね。(僕も何度か20m台で見たことがあります。)

このミズタマヤッコ、小笠原の海でしか見ることのできない魚ですが、海は繋がっているので、もしかしたらこの先、小笠原以外の海でも発見されるかもしれません。

(実際に小笠原で最初に発見された後に、他の海でも見つかった魚も多くいます。)
しかし、今のところ他の地域では見たという声は聞いたことがないので、しばらくは、

「出会えるのは小笠原だけ!」

と自慢できそうです。

小笠原の固有種 ミズタマヤッコ【動画】

南俊夫

写真家・ガイド

南 俊夫

22歳の時に初めて小笠原を訪れる。大学卒業後、設計会社に勤めるが27歳で父島に移住。以来、20年のダイビングガイドをしながら小笠原の自然を撮影し続ける。2011年からはアホウドリの保全活動にも従事しする。
作品は国内外の広告、出版物で使われ、2015年にはアメリカのネイチャーズベストマガジンの表紙を飾った。
著書
「イルカ海に暮らす哺乳類」あかね書房 
「僕はアホウドリの親になる」偕成社
受賞歴
2000年
ナショナルジオグラフィックフォトコンテスト入賞
2008年
米、ネイチャーズベストマガジンフォトコンテストOcean部門入賞
2011年
米、ネイチャーズベストマガジン・Ocean Vewsフォトコンテスト2nd Place
2015年
米、ネイチャーズベストマガジン・Ocean Vewsフォトコンテスト11nd Place

写真展
2012年6月
「コニカミノルタ環境企画展OGASAWARA未来へつなぐ自然展」 新宿コニカミノルタギャラリー
2013年11月
「海のシェルパ展 AQUANOTE」四人展 新宿ヨドバシカメラギャラリーINSTANCE
2015年10月
「小笠原の今を知る 南俊夫写真展」葛西臨海水族園
2018年10月「アホウドリ復活への挑戦 ~小笠原で行われたこと」品川キヤノンギャラリー
作品は下記ウェブサイトで見ることができる。

http://toshiominami.com/